私たち日本国民の象徴である天皇陛下。
日ごろ、どのようなことをなさっているのかご存じですか?
ご公務(おおやけの仕事)の様子はテレビや新聞でも報道されますし、宮内庁の公式ホームページでは天皇皇后両陛下のご日程が公表されています。
そんなご公務の中に「国事行為」があります。
今回は、天皇の国事行為についてわかりやすく解説します。
国事行為とは?
国事行為とは、天皇が行うものとして日本国憲法に規定された行為のことです。
日本国憲法第3条、第4条、第7条では、天皇の国事行為について以下のように規定しています。
日本国憲法第3条
「天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣がその責任を負う」
これは、天皇の国事行為について、天皇に責任はないことを意味し、天皇は政治から隔離されていることを強調しています。
日本国憲法第4条第1項
「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する機能を有しない」
これは、天皇が政治に関わらないことを意味しています。
日本国憲法第7条
「天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ」
これは、天皇は内閣の助言と承認によって国事行為を行うということです。
国事行為は天皇の意志ではなく、内閣の助言と承認によって行うので、形式的・名目的なものとなっています。
「左の国事に関する行為」につきましては、後ほど説明いたします。
それでは、天皇の国事行為を見ていきましょう!
天皇の国事行為一覧
① 国会の指名に基づいて、内閣総理大臣を任命すること
② 内閣の指名に基づいて、最高裁判所の長たる裁判官を任命すること
③ 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること
④ 国会を召集すること
⑤ 衆議院を解散すること
⑥ 国会議員の総選挙の施行を公示すること
⑦ 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること
⑧ 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること
⑨ 栄典を授与すること
⑩ 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること
⑪ 外国の大使及び公使を接受すること
⑫ 儀式を行うこと
⑬ 国事行為を委任すること
天皇の国事行為をひとつずつ説明していきます。
① 国会の指名に基づいて、内閣総理大臣を任命すること
日本国憲法6条1項
天皇が内閣総理大臣を任命するということです。
②に続きます。
② 内閣の内閣の指名に基づいて、最高裁判所の長たる裁判官を任命すること
日本国憲法6条2項
最高裁長官を天皇が任命するということです。
①の内閣総理大臣の任命は、国会の指名
②の最高裁判所長官の任命は、内閣の指名
に基づかなければなりません。
そのため、任命権は持っていても天皇が独断で決めることはできず、形式的、名目的な行為になっています。
以下の③から⑫までは、先ほど説明した日本国憲法第7条の「左の国事に関する行為」です。
③ 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること
日本国憲法第7条第1号
憲法改正、法律、政令及び条約に変更があったとき、また、新しく作られた時に、広く国民に知らせます。
公布は広く知らせるという意味があり、官報(かんぽう・国が発行する新聞のようなもの)をもって行われます。
④ 国会を召集すること
日本国憲法第7条第2号
内閣の決定に基づき、国会議員を集めて国会を開かせます。
⑤ 衆議院を解散すること
日本国憲法第7条第3号
内閣不信任決議案が可決した場合も否決した場合も含め、衆議院全員の議員資格を任期満了前に失わせ解散させることです。
内閣不信任決議案とは、現行の内閣を信用できないからと退任を求める決議です。
⑥ 国会議員の総選挙の施行を公示すること
日本国憲法第7条第4号
「総選挙」とは全国一斉に行われる選挙のことです。
衆議院の総選挙・参議院の3年ごとの通常選挙も含み、その選挙がいつから行われるかを公示します。
公示(こうじ)とは、一定の事柄を周知させるために多くの人が知ることのできる状態に置くことをいい、ここでは、選挙が行われることを広く知らせるという意味です。
⑦ 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること
日本国憲法第7条第5号
官吏(かんり)とは国家公務員のことです。
任免(にんめん)とは任命と罷免のことです。
罷免(ひめん)とは、公務員の職を強制的に辞めさせることです。
国務大臣、国家公務員の任免、並びに条約締結の委任状と外交使節の長である大使、次席の公使の信任状を天皇が認証することです。
認証は「それでいいですよ」と認めることです。
⑧ 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること
日本国憲法第7条第6号
大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権などを「恩赦(おんしゃ)」といいます。
恩赦とは、国家の慶事があったときなどに、刑罰の全部または一部を消滅させたり、軽減させたりする制度のことで、内閣が決定したものを天皇が認証します。
大赦(たいしゃ)とは、刑罰の種類を限定して罪や過ちを許すということです。
有罪になった人の判決の効力を失わせたり、判決前の人の場合は公訴権(こうそけん)を消滅させたりします。
公訴権とは、検察官が裁判所に対して裁判を求めるもので、大赦の対象となった場合は、罪が許され裁判は行われません。
特赦(とくしゃ)とは、有罪の判決を受けた特定の人の罪や過ちを許すということで、個別恩赦ともいいます。
※大赦と特赦の違い
●大赦
有罪判決が出た人だけではなく、刑事裁判の裁判中や捜査中の人も対象です。
大赦は特定の刑罰に関する人全員が対象です。
特定の刑罰とは、公職選挙法違反や政治資金規正法違反、鉄道営業法違反、古物営業法違反などの無期懲役や死刑、懲役刑、罰金刑などがあります。
たとえば、昭和天皇が崩御された平成元年(1989年)の大赦では、未成年者喫煙禁止法、未成年者飲酒禁止法、軽犯罪法違反などの罪を犯した約2万8600人が対象となりました。
●特赦
刑事裁判で有罪判決が出た人だけが対象です。
刑罰にかかわらず、特定の個人が対象です。
⑨ 栄典を授与すること
日本国憲法第7条第7号
栄典とは、勲章(くんしょう)や褒章(ほうしょう)などのことです。
内閣などが決めた、国家などに功労があった者へ、その栄誉をたたえ天皇が授与します。
勲章、褒章についてはこちらをご覧ください。
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⑩ 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること
日本国憲法第7条第8号
批准書(ひじゅんしょ)とは、外国と結んだ条約に対する国家の確認や同意を示す文書のことで、内閣が審査をしています。
天皇は、この批准書に署名と捺印をして認証します。
⑪ 外国の外国の大使及び公使を接受すること
日本国憲法第7条第9号
接受(せつじゅ)とは、接して受ける、接して受け入れるなどの意味があります。
この場合、外国の代表としてやってきている大使や公使を受け入れるということです。
もっと簡単にいうと、大使や公使がその国の代表として天皇とお会いするということです。
⑫ 儀式を行うこと。
日本国憲法第7条第10号
ここでいう儀式とは、国家的な性格を有する儀式のことです。
たとえば、昭和天皇が崩御(ほうぎょ・亡くなること)なさったときの大喪の礼(たいそうのれい)や、今上天皇が即位なさったときの即位の礼、毎年新年に行われる新年祝賀の儀などがあります。
⑬ 国事行為を委任すること
日本国憲法第4条第2項
「天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。」
これは、天皇が法律に則って国事行為を委任できますよということで、「国事行為の臨時代行に関する法律」で定められています。
●国事行為の臨時代行に関する法律第2条
「天皇は、精神・身体の疾患か事故があるときは、摂政を置くべき場合を除き、内閣の助言と承認により、国事行為を皇室典範の規定により摂政となる順位にあたる皇族に委任して臨時に代行させることができる」
摂政(せっしょう)とは、天皇に変わって国事行為を行う皇族のことです。
摂政は、成年に達した皇族が就任するよう皇室典範第17条に以下の数字の順番で優先順位が定められています。
1. 皇太子(皇太孫)
2.親王・王
3. 皇后
4. 皇太后
5. 太皇太后
6. 内親王・女王
天皇の国事行為にどういうものがあるのかわかりましたね。
内閣総理大臣の任命や、国会の開会式でお言葉を述べられている天皇陛下のお姿は、ニュースでも観たことがありますよね。
また、国事行為に関する内閣から届けられた書類は年間1000件以上もあり、丁寧にご覧になった上でご署名なさるそうです。
私たちがニュースなどで観る天皇陛下は、いつも穏やかで優しいお顔をされていて、大変さなど微塵も感じさせませんが、私たちが知らないところでとても大変なことをなさっているのですね。
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