順番を数える時、「1、2、3・・・」と数える代わりに、「い、ろ、は・・・」と数えることがありますことがありますよね。
かつて日本語における順番法として「いろは順(いろはにほへと順)」が広く用いられていましたが、現在はほぼ五十音順(あいうえお順)に取って代わってしまいました。
最近はお目にかかることがめっきり少なくなってしまった「いろはにほへと」ですが、続きを全部ご存知の方はどれくらいいらっしゃるでしょう?
また、作者は誰で、どのように覚えればいいのでしょうか?
今回は「いろはにほへと」についてわかりやすく解説します。
「いろはにほへと」の続きと意味とは?
「いろはにほへと」は「いろは歌」と呼ばれており、七五調(7音・5音の順で繰り返す形式の詩のこと)で作られています。
まずは、読み方をすべて仮名で書いてみましょう。
いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ つねならむ
うゐ(い)のおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑ(え)ひもせす
このように、すべての仮名が重複せずに作られているため、順番を数えるときや番号付けなどに広く利用されていました。
昔は上記の47文字だけでしたが、今は「ゑひもせす」の後に「ん」をつけくわえて48文字とすることも多いようです。
仮名だけですと意味がわかりずらいですので、漢字を使って直すと次のようになります。
色は匂へど 散りぬるを
(香よく咲く色とりどりの花も散ってしまう)
我が世誰ぞ 常ならむ
(この世は誰にとっても永遠ではない)
有為の奥山 今日超えて
(無常の現世という深い山を今日超えれば)
浅き夢見じ 酔ひもせず
(儚い夢をみることも、現世に酔いしれることもないだろうに)
この歌の意味は明確なものはなく、さまざまな解釈があると言われていますが、仏教の思想を歌にしたというのが一般的な解釈です。
歌にある「有為」というのは、仏教用語で「因縁によって起きる一切の物事」という意味があり「無常の現世をどこまでも続く深い山に喩えたもの」とされています。
「いろはにほへと」には暗号が隠されている?
また、いろは歌には、暗号が隠されているともいわれています。
その暗号から、いろは歌は「本当は怖い意味がある」「呪いの歌である」といった都市伝説的な解釈もあるようです。
現在は七五調のいろは歌が主流ですが、古い文献の一部では7文字ごとに区切って書かれていたそうです。
7文字ごとに区切ると以下のようになります。
いろはにほへと
ちりぬるをわか
よたれそつねな
らむうゐ(い)のおく
やまけふこえて
あさきゆめみし
ゑ(え)ひもせす
最後の1文字を繋げると「とかなくてしす」となります。
漢字では「咎(とが)無くて死す」となり、「私は無実の罪で殺される」という意味になります。
そのため、無実の罪をきせられた人が殺される前に残した歌で、遺恨が込められているといわれおり、「いろは歌は呪いの歌」「いろは歌の本当の意味は怖い」といわれているようです。
「いろは歌」の作者は誰?
作者が誰なのか諸説ありますが、明確なことはわかっていません。
昔から、いろは歌の作者は空海(くうかい)ではないか?という説があります。
これはいろは歌が仏教の教えに通じることと、これだけ深い内容の歌をすべての仮名が重複しないように作ることができるのは空海しかいないということで広まった説です。
しかし、空海が生きていた時代にはこのような歌の作り方はしないことや、音の使い方が異なることから、現在は「空海の可能性はほとんどない」とされています。
他に、柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)や、源高明(みなもとのたかあきら)が作者とする説などもありますが、いろは歌の作者は不明のままです。
いろは歌の起源や歴史は?
いろは歌がいつ作られたのか、正確なことはわかっていません。
文献に初めて登場したのは、1079年の「金光明最勝王経音義(こんこうみょうさいしょうおうぎょうおんぎ)」という仏典の注釈書で、10世紀末から11世紀中頃に作られたのではないかと考えられています。
11世紀ごろからは仮名の手習いの手本として使われるようになり、江戸時代(1603年~1868年)に入ると、寺子屋などで識字教育の手本として、いろは歌はさらに広まりました。
また、江戸では火事に備えて町火消し(まちびけし)が活躍していましたが、「いろは四十八組」が編成され、「い組」「ろ組」「は組」・・・と名乗っていたそうです。
中でも「め組」は有名で「め組の喧嘩」という、100人以上の大規模な喧嘩をしたことで話題になり、歌舞伎の演目にもなっています。
いろは順から五十音順へ
五十音はいろは歌と同じくらい古くからありましたが、幕末まで一般向けの類書(百科事典)の項目は、いろは順で並べられていました。
また、法令全書も大正までいろは順の索引を使用しており、一般に広く用いられていました。
しかし、戦後になり、いろは歌の意味が現代の感覚とずれてしまったこと、また、現代かなづかいと馴染まないものや使わない文字などが含まれていることなどから、あいうえお順に代わっていきました。
いろは歌の覚え方は?
「いろは歌」は七五調でリズムよく歌えるようになっていますから、何度か繰り返して歌ううちに覚えることができます。
また、仮名だけで覚えようとすると大変ですが、漢字で書いたものを見て、その風景を想像しながら覚えていくと印象に残りやすいですね。
いかがでしたでしょうか?
現在でも文章を箇条書きにするとき「イ、ロ、ハ・・・」と書くことがあります。
日光東照宮で有名な栃木県日光市にはカーブの順番を「いろは」で数えていく「いろは坂」というものがあります。
また、イタリア語式の「ドレミファソラシ」、英語式の「C D E F G A B」の音名の順番を日本では「ハニホヘトイロ」に当てはめ、ハ長調やイ短調といった用語が使用されています。
JRでも、グリーン車とA寝台車に「ロ」、普通車とB寝台車に「ハ」の記号が使用されているそうです。
千葉県や石川県では地名にいろは順を用いている地域があります。(例:千葉県香取市佐原イ)
また、お正月に親戚や子供が集まった時に「いろはかるた」で盛り上がりますよね。
このように案外身近なところで「いろは歌」が使われているのです。
11世紀ごろにできたと考えられる「いろは歌」が、21世紀の現在も使われているのは、とてもすごいことですよね。
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