昔から日本人は、自然とともに生きていく中で喜びや驚き、もの悲しさなどを歌に詠み、自らの想いを表現してきました。
特に秋は、紅葉(もみじ)が赤く染まり、月が美しく見え、また、少し物思いにふけてしまう季節でもあるためなのか、秋をテーマに詠まれた俳句は数多くあります。
そんな秋に詠まれた俳句の中から、今回は有名な俳句30句を紹介いたします。
俳句とは?
俳句は季節の風景やその時に感じたことを5・7・5の短い言葉で表現する詩、わずか17音の中に感動を凝縮させて詠(うた)う、世界に類のない短詩型文学です。
簡単なルールは、17音を基本とすること、句の中に季節を表す「季語」を詠み込むことです。
※「字余り」「字足らず」といって17音を超えるや17音に満たない句もございます。
また、句の途中や句末に、句を切る働きをする「切れ字」(主に「や」「かな」「けり」など)を置き、言いたいことを省略することで、読者は想像をふくらませて楽しむことができます。
作者は目の前の景色や感動を限られた17音に託し、読者はそこからどこまでも広がっていく世界を味わえるのが俳句の醍醐味ではないでしょうか。
秋の季語について
「季語」は、俳句で季節を表すために詠み込まれる言葉のことで「新年」「春」「夏」「秋」「冬」の5つに分けられます。
17音という短い俳句の中で豊かな情景を表現できるのは季語があるからとも言えます。
では、秋の季語についてみていきましょう。
秋の季語の代表的なものと言えば「月」があります。
一年中見ることができる月ですが、秋は他のどの季節よりも美しく見えることから、秋の季語となっています。
また、意外なのは「七夕」「朝顔」「西瓜」「盂蘭盆」など夏をイメージするものが秋の季語だということです。
これは、季語が旧暦によって決められていることから生じる、今の季節とのずれです。
旧暦では、大まかに
1月から3月を春
4月から6月を夏
7月から9月を秋
10月から12月を冬
として考えます。
そう考えると先ほど述べた季節のずれも納得できるかもしれません。
それでは秋の俳句を紹介していきましょう。
秋の俳句30句
①『秋深き 隣は何を する人ぞ』
作者:松尾芭蕉
季語:秋深し
意味:すっかり秋が深まって、このごろは何か寂しさを感じ、隣の人は何をする人か気になっています。
②『この道や 行くひとなしに 秋の暮れ』
作者:松尾芭蕉
季語:秋の暮れ
意味:はるかに続くこの道には、通る人もなく、秋の夕暮れの寂しさが身に染みるものです。私の俳諧への道もこのようなものなのでしょうか。
③『枯れ枝に 烏のとまりけり 秋の暮れ』
作者:松尾芭蕉
季語:秋の暮れ
意味:気がついてみると、枯れ枝に烏が寒々と止まっています。あたりは日が暮れかかり、秋の夕暮れの静けさが広がっています。
④『荒海や 佐渡に横たふ 天の川』
作者:松尾芭蕉
季語:天の川
意味:暗い夜の海がすさまじく荒れ、はらわたをちぎるような波音が響いています。その暗い海の彼方に、多くの流人の悲しみを秘めた佐渡島が、手に取るように鮮やかに浮かんでいます。仰ぎ見ると、空には銀河が佐渡のほうへかかっています。
⑤『白露も こぼさぬ萩の うねりかな』
作者:松尾芭蕉
季語:白露・萩
意味:露をいっぱいためた萩の花。風に吹かれてうねっても、その露を落とさないことですよ。
⑥『月天心 貧しき町を 通りけり』
作者:与謝蕪村
季語:月
意味:月が天の中心にかかっている夜更けに、貧しい家の並ぶ町を通ったことですよ。
⑦『鳥羽殿へ 五六いそぐ 野分かな』
作者:与謝蕪村
季語:野分
意味:野分が吹きすさぶ野中を、五、六騎の騎馬武者が、離宮を指して飛ぶように疾駆していきます。何か事変でも起こったのか、ただならぬ気配です。
⑧『四五人に 月落ちかかる をどり哉』
作者:与謝蕪村
季語:踊り ※盆踊りのこと
意味:夜も更けると盆踊りの人数が減って4、5人になり、月も沈みかかる中を踊っています。
⑨『白露や 茨の刺に ひとつづつ』
作者:与謝蕪村
季語:白露
意味:秋も深くなり、庭には一面に朝露が降りています。茨に近づいてみると、その鋭い刺の先に一つひとつ露がくっついています。
⑩『秋風や むしりたがりし 赤い花』
作者:小林一茶
季語:秋風
意味:亡き子の墓参りに行くと、路傍の赤い花が、秋風の中に揺れています。あの子がよくむしりたがっていた花です。その赤さが目にしみて、悲しさが込み上げてくるのです。
⑪『名月を とってくれろと 泣く子かな』
作者:小林一茶
季語:名月
意味:あのお月様がほしいよ、ねえ、取ってよと言いながら子どもが泣いているのですよ。
⑫『有り明けや 浅間の霧が 膳をはふ』
作者:小林一茶
季語:霧
意味:朝早く出発しようと起きてくると、空には有り明の月がかかっています。浅間山の方から流れてきた霧が、開け放した窓から煙のように入り込んできて、膳のあたりに低くまといついています。
⑬『露の世は 露の世ながら さりながら』
作者:小林一茶
季語:露
意味:この世は露のようにはかないものだと知っています。知ってはいるのですがあきらめきれないのですよ。
⑭『うつくしや 障子の穴の 天の川』
作者:小林一茶
季語:天の川
意味:うつくしいことです、障子の穴から見える天の川は。
⑮『柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺』
作者:正岡子規
季語:柿
意味:柿を食べていたらふいに鐘がなりだしました。法隆寺の鐘です。
⑯『桐一葉 日当たりながら 落ちにけり』
作者:高浜虚子
季語:桐一葉
意味:残暑の日差しを受けて、不意に桐の葉が一枚落ちました。あぁ、もう秋が来たのですね。
⑰『牛の子の 大きな顔や 草の花』
作者:高浜虚子
季語:草の花
意味:牛の子の顔は大きい。牛の子が草の花ににゅっと顔を近づけたとき、花と比べてその大きさに気がつきました。
⑱『秋の暮れ 道にしゃがんで 子がひとり』
作者:高浜虚子
季語:秋の暮れ
意味:秋の日ははやくも暮れようとしています。でも、道ばたに一人しゃがんでいるあの子どもは、まだ帰ろうともしません。
⑲『鳥わたる こきこきこきと 缶切れば』
作者:秋元不死男
季語:鳥わたる
意味:鳥が渡って行きます。缶詰を切る音に合わせて、窓の外の空をジグザグに渡って行きます。
⑳『啄木鳥や 落葉をいそぐ 牧の木々』
作者:水原秋櫻子
季語:啄木鳥
意味:啄木鳥がさかんに木をたたいています。その軽快な音に誘われたかのように、牧場の木々がひらひらと葉を落としています。
㉑『行水の 捨てどころなき むしのこゑ』
作者:上島鬼貫
季語:虫の声
意味:行水に使った湯を捨てる場所もないほどに虫の声があちこちに聞こえてきます。
㉒『朝顔に 釣瓶とられて もらひ水』
作者:加賀の千代女
季語:朝顔
意味:朝顔が井戸の釣瓶にまきついていて、花を折るのに忍びないので近所でもらい水をしました。
㉓『星空へ 店より林檎 あふれおり』
作者:橋本多佳子
季語:林檎
意味:寒い星がいっぱいで、くだもの屋のあの山盛りのりんごが星空へ向かってあふれ出しているようです。
㉔『響爽か いただきますと いう言葉』
作者:中村草田男
季語:爽か
意味:なんと爽やかな響きでしょうか。「いただきます」というあいさつは。さわやかな秋がいっそうさわやかになります。
㉕『肩に来て 人懐かしや 赤蜻蛉』
作者:夏目漱石
季語:赤蜻蛉
意味:肩へ赤蜻蛉がとまりました。横目で見ると、懐かしい人にあったような感じで翅を休めています。
㉖『草山に 馬放ちけり 秋の空』
作者:夏目漱石
季語:秋の空
意味:牧草の茂る山の斜面に、三々五々、馬が群れています。高く澄んだ秋空が、馬を山へ解放したような、そんな広々とした眺めです。
㉗『おりとりて はらりとおもき すすきかな』
作者:飯田蛇笏
季語:すすき
意味:折った瞬間、はらりとした感じの重さを手に伝えましたよ、このすすきは。
㉘『歯にあてて 雪の香ふかき 林檎かな』
作者:渡辺水巴
季語:林檎
意味:さくっとかむと冷たくて雪の香りがすると思いました。そういえばこの林檎の産地は、もう深い雪でしょう。
㉙『親よりも 白き羊や 今朝の秋』
作者:村上鬼城
季語:今朝の秋
意味:どの子羊も親より白い毛をしています。さわやかな白さです。そういえば今日は立秋、今朝やさわやかな秋の朝です。
㉚『秋の雲 ちぎれちぎれて なくなりぬ』
作者:内藤鳴雪
季語:秋の雲
意味:白くて薄い秋の雲。次々にちぎれてとうとうなくなってしまった。
秋の俳句には名句と言われるものも多くあり、今回はそれらを中心に選びました。
一括りに秋の俳句と言っても、また、例え同じ季語を詠みこんだ俳句であっても、そこから見える世界は様々であり、それぞれに作者の想いがたくさん詰まっています。
作者に思いを馳せ、詠み込まれた美しい景色を想像しながら、俳句を通して秋の季節を楽しんでみてはいかがでしょうか。
関連:【俳句の作り方】初心者でも簡単!俳句を作る手順と作り方のコツ
関連:【新年の俳句30選】有名な新年の俳句一覧 名作俳句の作者・季語・意味とは?
関連:【春の俳句30選】有名な春の俳句一覧 名作俳句の作者・季語・意味とは?
関連:【夏の俳句30選】有名な夏の俳句一覧 名作俳句の作者・季語・意味とは?
関連:【冬の俳句30選】有名な冬の俳句一覧 名作俳句の作者・季語・意味とは?
関連:紅葉狩りはなぜ”狩り”?意味と由来とは?紅葉(もみじ)と楓(かえで)の違い
コメント