
食べ物の最後の一つが残る「一つ残し」という言葉があります。
地域によって呼び方が異なるようですが、みなさんの地域ではなんと呼んでいますか?
この記事では、「一つ残し」の意味や、一つ残る理由、最後の一つに関する日本各地の風習についてご紹介いたします。
「一つ残し」の意味とは?
読み方は「ひとつのこし」です。
お菓子や大皿料理などをみんなで食べる時、最後に一つだけ残ること、または意図的に一つ残す行為を指します。
「一つ残し」の習慣がいつ始まったのかは定かではありませんが、明治26年(1893年)に発行された峯是三郎の著書『修身教授及訓練法』には、
「俗に皿中に一片一品の残りたるを遠慮のかたまりと云ふ」
という記述があり、明治時代にはすでに「遠慮のかたまり」という言葉が一般的に使われていたことがわかります。
また、2022年には三省堂国語辞典に「遠慮のかたまり」が正式に掲載されたことで、改めて広く知られるようになりました。
一つ残しという言葉は以下のように使います。
「宴会の時は毎回どのテーブルでも一つ残しになるよね。」
「飲み会で大皿の料理が一つ残っていて、誰かが「一つ残し」といっていた。」
「この一つ残し、だれか食べませんか?」
なぜ一つ残るのか?
この習慣の背景にあるのは、日本文化に根づいた「遠慮」です。
遠慮とは単なる謙遜ではなく、「相手の気持ちを先読みして行動を控える」という他者への深い配慮を意味します。
最後の一つを取ることで「厚かましい人間」「欲深い人間」と思われることへの恥ずかしさや、「私が食べてしまっていいのだろうか」という罪悪感が無意識に働き、誰も手を出さないまま残ってしまいます。
これは日本文化の「空気を読む」意識とも深く結びついています。
誰かが「どうぞ」と言わない限り、最後の一つに手を伸ばすことが「空気が読めない行為」として映ってしまうのです。

また、ほかにも
「お皿が空になるとお皿を下げられてしまいテーブルになにもなくなるから」
「お皿が空になったら追加の注文をしなければならないから」
などの理由があるといわれています。
こうした風習は日本特有のもので、外国ではあまり見られません。

一方、中国では出された料理を最後に少しだけ残すのがマナーとされています。
お客さんにたくさん食べてもらうことが歓迎の意を表すことになるため、すべて食べてしまうと「料理が足りなかった」「満足できなかった」と受け取られてしまいます。
そのため、少し残すことで「満足しました」「食べきれないほどのもてなしをありがとうございます」と伝えるのです。
日本とは違う意味で少し残すのですね。
※但し現在は、2021年に「反食品浪費法」が制定されたことにより、食べ残しを減らす「光盤行動(皿を空にする)」という考え方が広まっており、食べ残しは推奨されなくなっています。
最後の一つを残す日本各地の風習を解説
「一つ残し」は日本各地にあり、地域によって呼び方が異なります。
関東地方
呼び方:
「関東の一つ残し」
「関東残し」
「関東残し」には関西の「遠慮して残す」とは少し異なる背景があるという見方もあります。
「見栄を張る江戸っ子気質」が反映されており、「まだ食べられるが、あえて残す」という姿勢がその特徴だとされています。
青森県
呼び方:
「津軽衆(つがるしゅう)」
寒さ厳しい青森県の津軽地方では、食料が少ない時にお互いに助け合う文化があり、自分たちを「遠慮深い県民」という意味を込めて、最後の一つに誰も手を出さない様子を「津軽衆」と呼びます。
また、最後の一つを食べた人を「津軽の英雄」と呼び称えます。
青森県、岩手県
呼び方:
「南部の一つ残し」
青森県南部や岩手県など、昔「南部藩」と呼ばれていた地域の習慣です。
「津軽衆」とほぼ同じ意味がありますが、料理をすべて食べるのは下品であるため残すともいわれています。
秋田県
呼び方:
「秋田の一つ残し」
食べ物を分け合う文化や、最後の一つを食べる人の罪悪感を和らげるための配慮だといわれています。
関西地方
呼び方:
「遠慮の塊(えんりょのかたまり)」
最後に残った一つを箸で取り「遠慮の塊、いただきます!」や「遠慮の塊だ!」と大きな声で言ってから食べる人もいるそうです。
関西の人は「遠慮の塊」を標準語だと思っている人が多いようですが、実は関西地方特有の方言のひとつです。
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長野県
呼び方:
「信州人のひと口残し」
遠慮深い信州人の気質が表れているといわれています。
新潟県
呼び方:
「新潟の一つ残し」
「越後の一つ残し」
雪深い地域の大変さを思いやる気持ちの現れで、食事の場に遅れてくる人のために残しておくそうです。
熊本県
呼び方:
「肥後(ひご)のいっちょ残し」
遠慮や他人への配慮から最後の一つに手を出さないといわれています。
佐賀県
呼び方:
「佐賀んもんのいっちょ残し」
遠慮深い佐賀県民の気質が反映されているといわれています。
日本全国ここで紹介した以外の地域でも、特に呼び名はなくても同じような風習があるようです。
そして、最後まで残して捨てるのではなく、誰かが食べるよう勧めたり、みんなで話し合うなどして最終的には誰かが食べてしまう事がほとんどです。
たとえば
誰かが「一つ残し、食べる人いない?」と声を掛けたり、食べ足りなそうな人、よく食べる人、若い人などに「一つ残しを食べてしまって」と勧めます。
誰かに勧められることによって、最後の一つを食べる人の罪悪感を和らげる目的もあります。
関西地方のように「遠慮の塊いただきます」と自ら宣言して食べることもあります。
また、名古屋は、最後の一つを残す風習はないそうです。
名古屋では最後の一つを残すのは行儀が悪い、マナー違反だと考え、最後の一つを残すことに抵抗感がある人が多く、残さず食べます。

「一つ残し」は日本全国にある風習なのですね。
地域によって呼び方は異なりますが、どこの地域も人々の遠慮から生まれた行為のようですから、日本人の遠慮深い気質を表しているのでしょうね。
しかし、最近は食べ物を残すことは良くないこと、マナー違反だという考え方が一般的になっているため「一つ残し」という言葉を知らない人も増えているようです。
最終的には誰かが食べるとはいえ、最後まで残っていると料理が冷めきったり乾いたりしてしまいますから、おいしいタイミングで食べてしまうのが良いですよね!
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