各地で雪の便りが届き、街はイルミネーションで煌めく冬。
そんな冬は、楽しいイベントが盛りだくさんです。
その一方で、ふと寂しさを感じたり、ひと肌恋しくなってしまう、そんな季節でもありませんか。
はらはらと降る雪を眺めながら、その美しさに心を動かされたり、孤独を嘆いてみたり。それは、今の私達だけではなく、いつの時代も変わらない心の動きであり、古くから日本人はそんな想いを歌にのせて表現してきました。
短歌(和歌)とは?
五・七・五・七・七の三十一文字(みそひともじ)で表現する短歌。そのはじまりは1300年前の奈良時代に遡ります。
当時は、「短歌」「長歌」「旋頭歌」「仏足石歌」「片歌」という五七調の歌(五音と七音を基調とする歌)を全てまとめて「和歌」と呼んでいました。
それが平安時代に入ると、「短歌」以外の文化が衰退していき、「和歌」というと自然と「短歌」形式の歌を指すようになりました。
「和歌」の特徴としては、まず、歌の中に修辞法が多く用いられることが挙げられます。
修辞法は、想いを効果的に伝えたり、趣を添えるために用いられる技巧で、時には言葉遊びのように使用することもありました。
また、「和歌」が収められている歌集は天皇や上皇の「勅命」によって編纂されたものも多く、貴族や文化人などを中心に盛んになった文化ともいえるでしょう。
一方、明治時代頃になると、これまでの「和歌」の歌風を否定する動きが起こりました。
それがきっかけとなり、同じ三十一文字(みそひともじ)の文学でありながら、明治時代以降の作品を「短歌」と呼び、これまでの「和歌」と区別するようになりました。
「短歌」は修辞法などあまり用いず、自然への詠嘆や近代化していく社会への不安・倦怠などが詠み込まれ、人々の現実に迫る歌風を持っています。
また、「和歌」とは違って権力とも切り離された文学であり、今でも一般の人を含め、多くの人に詠まれ続けています。
このように、「和歌」「短歌」それぞれに歴史や特徴がありますが、ここでは、五・七・五・七・七の形式で詠まれた歌を「短歌」と一括りにして扱っていきたいと思います。
今回は、冬をテーマにした短歌30首を取り上げ、短歌の意味とその修辞法について紹介いていきたいと思います。
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冬の短歌(和歌)30首
①『田子の浦に うちいでて見れば 白妙の 富士の高嶺に 雪はふりつつ』
作者:山部赤人
意味:田子の浦の眺めの良い所に進み出て、遥か彼方を見渡すと、真っ白い富士山の頂上に今もなお雪は降り続いていることだよ。
修辞法:「白妙の」を「富士」の枕詞とする説もある
※田子の浦:静岡県駿河湾にそそぐ富士川の河口湖付近で、古来、富士山を眺める景勝地と言われていました。
②『かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞふけにける』
作者:中納言家持
意味:かささぎ(カラス科の鳥)の群れが翼を広げて橋をかけたという言い伝えがある天の川。その橋がまるで霜が降りたかのように真っ白に見えることから考えると、もうずいぶん夜も更けてしまったことだなあ。
③『山里は 冬ぞさびしさ まさりける 人めも草 かれぬと思へば』
作者:源宗于朝臣
意味:山の中にある村は、いつも寂しいものだが、特に冬は寂しさがまさるものだ。人の訪れも途絶え、草も枯れてしまうと思うと。
修辞法:三句切れ、倒置法、「かれ」に「枯れ」と途絶えるという意味の「離(か)れ」を掛けている。
④『朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪』
作者:坂上是則
意味:夜がほのぼのと明けるころ、辺りを見渡すと、まだ残っている明け方の月ではないかと思ってしまう程に、吉野の里に降り積もっている白雪よ。
修辞法:体言止め
※吉野の里:奈良県吉野郡周辺。春は桜、冬は雪の名所と詠われました。
⑤『朝ぼらけ 宇治の川霧 たえだえに あらはれわたる 瀬々の網代木(あじろぎ)』
作者:権中納言定頼
意味:冬の夜がほのぼの明けるころ、宇治川(京都の宇治川)に立ちこめていた霧がとぎれとぎれに現れてくる。その絶え間から浅瀬にしかけられた網代木が次々と現れてくることだ。
修辞法:体言止め
※網代木(あじろぎ):竹などを編んで作った氷魚(鮎の稚魚)をとるしかけをかけておく杭のことです。
⑥『淡路島 かよふ千鳥の鳴く声に 幾夜寝ざめぬ 須磨の関守』
作者:源兼昌
意味:淡路島から海を飛び通ってくる千鳥の物悲しい鳴き声のために、幾度目を覚ましてしまっただろうか。須磨の関の番人は。
修辞法:四句切れ、倒置法、体言止め
※淡路島:兵庫県須磨の西南に位置する島。
※須磨の関守:「須磨」は今の神戸市須磨区の南海岸のことで、「関守」は関所の番人のことです。
⑦『東(ひんがし)の 野にかぎろひ(い)の 立つ見えて かへ(え)り見すれば 月傾(かたぶ)きぬ』
作者:柿本人麻呂
意味:東の野原に、明け方のほのかな光が、陽炎のようにさしそめるのが見えた。振り返ると、西の空に月が沈もうとしていた。
⑧『若の浦に 潮満ち来れば 潟をなみ 葦辺をさして 鶴(たず)鳴き渡る』
作者:山部赤人
意味:冬の若の浦(和歌山県の海辺)に潮が満ちてくると、干潟がだんだんなくなり、葦のはえている岸辺をめざして、鶴が鳴きながら移動していくのだ。
⑨『雪降れば 木ごとに花ぞ 咲きにける いづれを梅と わきて折らまし』
作者:紀友則
意味:雪が降ったので、どの木にも花が真っ白に咲いたことだなあ。さて、この積もった雪の中から、どれを梅と区別して折ればいいのだろうか。
※「木ごとに」は漢字で「木」「毎」で「梅」になり、漢字から発想した素晴らしい歌と言われています。
⑩『冬ながら 空より花の 散りくるは 雲のあなたは 春にやあるらむ』
作者:清原深養父
意味:まだ冬でありながら空から花が散ってくるのは、雲の向こうはもう春なのでしょうか。
修辞法:見立て(降ってくる雪を白い花と見立てている。)
⑪『志賀の浦や 遠ざかりゆく 波間より 氷りていづる 有明の月』
作者:藤原家隆
意味:志賀の浦よ。夜が更けるにつれて海が凍っていき、次第に波打ち際が岸辺から遠ざかっていく。その波の間から、氷ついたように冷たい光を放って出てきた明け方の月よ。
修辞法:初句切れ、歌枕(志賀の浦)、体言止め、本歌取り
本歌「さ夜更くるままにみぎはや凍るらむ遠ざかりゆく志賀の浦波」
志賀の浦:滋賀県大津市の琵琶湖南西岸の地で和歌に詠まれる名所「歌枕」としても有名です。
⑫『駒とめて 袖うちはらふ かげもなし 佐野のわたりの 雪の夕暮れ』
作者:藤原定家
意味:乗っている馬をとめて、袖に降りかかった雪を払い落とそうとするも、そうするための物陰も見当たらない。この佐野のあたりの雪の降りしきる夕暮れ時よ。
修辞法:三句切れ、体言止め、本歌取り
本歌「苦しくも 降り来る雨か 三輪の崎 狭野の渡りに 家もあらなくに」
駒:馬のことです。
佐野:今の和歌山県新宮市の佐野とされています。
⑬『夕されば 衣手さむし みよしのの よしのの山に み雪降るらし』
作者:詠み人知らず
意味:夕方になると袖のあたりに寒さを感じる。きっとあの吉野の山では雪が降っているに違いない。
修辞法:二句切れ
⑭『おほぞらの 月の光し きよければ 影見し水ぞ まづこほりける』
作者:詠み人知らず
意味:大空にある月の光が清く冷たく冴えかかっている。だから、その月の光を見ていた池の水が、第一に凍ったことであろうよ。
⑮『わが宿は 雪降りしきて 道もなし ふみわけてとふ 人しなければ』
作者:詠み人知らず
意味:私の家は雪が降りしきり、道も閉ざされてしまった。その雪を踏み分けて訪ねてくる人など誰もいないので。
修辞法:三句切れ
⑯『しら雪の ふりてつもれる山里は 住む人さへや 思ひ消ゆらむ』
作者:壬生忠岑
意味:白雪が降り積もった山里は、雪で辺り一面が覆われているだけでなく、住んでいる人の心までも沈み、思いの火が消えているのであろうか。
修辞法:掛詞「思ひ」の「ひ」に「火」を掛けている。「火」と「消ゆ」は縁語。
⑰『ふる里は よしのの山し 近ければ 一日(ひとひ)もみ雪 降らぬ日はなし 』
作者:詠み人知らず
意味:この古都奈良は、雪の名所の吉野山が近いものだから、冬になると雪が降らない日は一日とてしてありませんよ。
⑱『さびしさに 堪へたる人の またもあれな 庵ならべむ 冬の山里』
作者: 西行
意味:私のように寂しさに堪えている人が他にもいるといいなあ。そしたらその人と家を並べて住みたいものです、この山里で。
修辞法:三句切れ、体言止め
⑲『み吉野の 山の白雪 つもるらし 古里さむく なりまさるなり』
作者:坂上是則
意味:吉野の山では、白雪が積もっているに違いない。その麓(ふもと)の奈良の旧都も一層寒くなっていることだろう。
修辞法:三句切れ
⑳『街をゆき 子供の傍を 通る時 蜜柑の香(か)せり 冬がまた来る』
作者:木下利玄
意味:街を歩いていて、遊んでいる子ども達のそばを通る時、ふと懐かしい蜜柑の香りがしてきた。そうか、また冬がやって来るのだなあ。
修辞法:四句切れ
㉑『背のびして むらさき葡萄 採るや(よ)うに 冬の昴を 盗みたし今』
作者:築地正子
意味:背のびをして、むらさきのぶどうを採るように、冬の夜空に浮かぶスバルを盗んでしまいたい今。
修辞法:体言止め
※昴(スバル):おうし座のプレアデス星団。普通6個の星が集まって見えることから、そのスバルをぶどうをもぎ取るように、盗んでしまいたいと詠っているのです。
㉒『冬眠より 醒(さ)めし蛙が 残雪の うへ(え)にのぼりて 体を平(ひら)ぶ 』
作者:齋藤茂吉
意味:冬眠から目覚めたばかりの蛙が、春になってもまだ残っている雪の上で、体を平たくし日向ぼっこをしている。
㉓『冬眠より 醒(さ)めし蛙が 残雪の うへ(え)にのぼりて 体を平(ひら)ぶ』
作者:齋藤茂吉
意味:冬眠から目覚めたばかりの蛙が、春になってもまだ残っている雪の上で、体を平たくし日向ぼっこをしている。
㉔『虫食いの みどりも共に きざむなり 冬の蕪(かぶら)よ 良くきてくれた』
作者:坪野哲久
意味:冬は野菜が乏しい季節。虫食いあとのある緑の葉っぱも無駄にしないで感謝しながら一緒に刻むのです。冬の蕪よ、よくきてくれたね。
修辞法:三句切れ
㉕『こんにゃくの 裏と表のあやしさを 歳晩のよる 誰か見ている 』
作者:岡部桂一郎
意味:こんにゃくの裏と表、どっちが裏でどっちが表か怪しい。年末の夜そんなこんにゃくを誰かが見ている。
※補足:意味のないことをしているおかしな人を詠んだ歌です。それでいて、目的や意味のないことにも面白さがある、価値がある、そんなことを表現した歌なのです。
㉖『夕焼空 焦げきは(わ)まれる 下にして 氷らんとする 湖(うみ)の静けさ 』
作者:島木赤彦
意味:西の空を焼きつくしてしまいそうな、真っ赤な夕焼け。その下に横たわり、間もな
く凍りそうな湖のなんという静けさだろう。
※湖(うみ):長野県の諏訪湖を指しています。
㉗『最上川 逆白波の たつまでに ふぶくゆふ(う)べと なりにけるかも』
作者:齋藤茂吉
意味:最上川に逆白波が立っている。それ程までに激しく吹雪く夕方になってしまったなあ。
※逆白波(さかしらなみ):山形県を流れる最上川(もがみがわ)で冬になると、流れとは逆の方向から強風が吹いて立てる白い波のことです。白い波が上流に向かって進んでいくので、川が逆流するように見えるのです。
㉘『白うさぎ 雪の山より 出でて来て 殺されたれば 眼を開き居り』
作者:斎藤史
意味:白いうさぎは、雪のふりつもった山から人里におりてきて、銃でうたれて、殺されてしまった。かっと目を見開いたまま。
㉙『街路樹は 冬あらは(わ)なる 枝張りて 空の寒さを 支へ(え)ゐ(い)たるかな』
作者:宮柊二
意味:街路樹は、冬になって、葉を落とした枝をぴんとはっている。その姿はまるで空の寒さを支えているように見えるよ。
㉚『あたらしく 冬きたりけり 鞭(むち)のごと 幹ひびき合ひ(い) 竹群はあり』
作者:宮柊二
意味:新しい冬がまたやってきたなあ。竹の林はよくしなう鞭のように、幹と幹をぶつけ合って音を立てているよ。
修辞法:二句切れ
※竹群(たかむら):「篁(たかむら)」とも書き、竹の林、竹藪のことです。
冬の歌には、冬の美しい風景や、厳しい寒さと共に生きる人々の姿が映し出されていました。
紹介した①~⑥の歌は有名な「百人一首」にも選ばれた歌を取り上げました。
現代よりも寒さを凌ぐ術などなかった時代ですが、そこに表現されているのは、辛さや嘆きだけではなく、今の私達よりも自然の美しさに敏感で、それを鋭く表現している趣ある世界ではないでしょうか。
また、㉑以降は明治時代以降に詠まれた短歌を紹介しました。
蜜柑の香りに冬の到来を感じたり、野菜不足の冬、大事に葱を刻む姿を表現した歌など、読んでいて心が温かくなる歌もありました。
いつの時代も変わらないもの、そして、変化し続ける私達の生活。短歌・和歌にはその両方が表現されています。
ひと肌恋しく感じる冬の季節。短歌・和歌を鑑賞しながら、自分自身にとって大事なものや、生き方を見つめてなおしてみてはいかがでしょうか。
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