【春の短歌30選】有名な春の短歌(和歌)一覧 名作短歌の作者・意味とは?

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春の短歌

冬の寒さが終わり、色鮮やかに開くつぼみと鳥たちの歌声が春の訪れを教えてくれます。

春は出会いだけではなく別れの季節でもありますが、寂しさの中にも希望が満ちている素晴らしい季節ではないでしょうか。

今回は、そんな春に詠まれた短歌を紹介します。

短歌の世界に映し出されている春の景色はどのようなものなのでしょうか。

また、人々は何を感じ、どのような想いを歌にのせて表現したのでしょうか。

 

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目次

短歌(和歌)とは?

 五・七・五・七・七の三十一文字(みそひともじ)で表現する短歌。新聞歌壇で目にしたことがあったり、学校の授業で習ったりと、その言葉は多くの人が知っているのではないでしょうか。

 

「短歌」のはじまりは1300年前の奈良時代に遡り、その頃は、

「短歌」

「長歌」

「旋頭歌」

「仏足石歌」

「片歌」

という五七調の(五音と七音を基調とした)歌を全てまとめて「和歌」と呼んでいました。

 

それが平安時代に入ると、「短歌」以外の歌の文化が廃れていったことから、「和歌」というと自然と「短歌」形式の歌を指すようになっていったのです。

 

「和歌」の特徴は、まず、歌の中に修辞法が多く用いられていることが挙げられます。

修辞法とは、伝えたい想いをより効果的に伝えたり、趣を添えるために用いる技巧のことで、時には言葉遊びのように使われることもありました。

また、「和歌」のもう1つの特徴として、貴族や文化人などが中心になって盛り上がった文化といえることです。

それは、天皇や上皇の「勅命」によって編纂された多くの歌集が存在することや、宮中での「歌合(うたあわせ)」の様子が古典文学作品によく描かれていることからも分かることです。

歌を詠む女性

長い間、多くの人に詠まれ、親しまれてきた和歌ですが、明治時代に入ると「和歌」の歌風を批判する声が上がり始めました。

それをきっかけに、同じ五・七・五・七・七の形式でありながら、明治時代以降の作品を「短歌」と呼び、これまでの「和歌」と区別するようになりました。

近代の「短歌」には、都市化・近代化していく社会を背景に、人生の苦悩や不安が多く詠み込まれています。

それが現代になると、話し言葉や外来語を用いて表現されるなど、時代と共に「短歌」も変化してきました。

また、「短歌」は「和歌」と違って修辞法をあまり用いないこと、そして天皇や貴族など権力とも切り離された文学である、という特徴もおさえておきたいです。

このように、「和歌」「短歌」それぞれに歴史や特徴がありますが、ここでは、五・七・五・七・七の形式で詠まれた歌を「短歌」と一括りにして扱っていきたいと思います。

今回は、春をテーマにした短歌30首を取り上げ、短歌の意味とその修辞法について紹介いていきたいと思います。

 

関連:短歌・和歌のルール、決まり、修辞法とは?短歌と和歌の違いと歴史

 

春の短歌(和歌)30首

①『花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに』

 

作者:小野小町

意味:桜の花と同じように私の容姿はすっかり衰えてしまいましたよ。むなしくわが身に降る長雨を眺めて暮らし、物思いに沈んでいるうちに。

修辞法:二句切れ、倒置法、「ふる」が「雨が降る」と「年月を経(ふ)る」の掛詞、「降る」と「長雨」は縁語。

 

 

 

②『君がため 春の野にいでて 若菜つむ わが衣手に 雪は降りつつ』

 

作者:光孝天皇

意味:あなたのために春の野に出て、若菜を摘み取っていると、私の着物の袖に、雪がしきりに降りしきっていることだよ。

 

※若菜:春に生える食用の草のこと。春の七草が代表的なものです。

 

 

③『ひさかたの 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ』

 

作者:紀友則

意味:こんなにのどかな光が差している春の日に、どうしてあれほど慌ただしく、落ち着いた心もなく桜の花は散っていくのだろうか。

修辞法:「ひさかたの」が「光」を導き出すための枕詞。

 

桜

 

④『人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香(か)ににほひける』

 

作者:紀貫之

意味:人の心は変わりやすいものですから、あなたの心は昔と同じままかどうか分かりません。しかし、懐かしいこの里の梅の花だけは、昔のままの香りで咲き匂っていますね。

修辞法:二句切れ

 

 

 

⑤『いにしへの 奈良の都の 八重桜 けふ九重(ここのえ)に にほひぬるかな』

 

作者:伊勢大輔

意味:昔の奈良の都で咲いた八重桜が、今日はこの平安時代の宮中のこのあたりに美しく咲いていることですよ。

修辞法:「けふ」が「今日(けふ)」と「京」、「九重」が「九重(宮中の意味)」と「ここの辺(へ)」の掛詞。「八重」と「九重」が対比

 

※九重:昔中国の王城は門を九重に作ったことから、宮中の意味を持ちます。

 

 

 

⑥『山ふかみ 春ともしらぬ 松の戸に たえだえかかる 雪の玉水』

 

作者:式子内親王

意味:山が深いので、春が来たとも知らずに春を待つ山の家の松の戸に、ぽつりぽつりと落ちかかる雪どけのしずくよ。

修辞法:「松の戸」は「松」と「春を待つ」の掛詞

 

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⑦『高砂の 尾の上(え)の桜 咲にけり 外山のかすみ 立たずもあらなむ』

 

作者:権中納言匡房

意味:遥か遠く高い山の峰の桜が咲いたことだなあ。人里に近い山の霞よ、せっかくのこの桜を隠さないように、どうか立たないでおくれ。

修辞法:三句切れ

 

※尾の上(え):山や丘の頂。峰のことです。

※外山(とやま):人里に近い山。「深山(みやま)」に対する語。

 

 

 

⑧『石走る 垂水(たるみ)の上の さわらびの 萌え出づる春に なりにけるかも』

 

作者:志貴皇子

意味:滝が岩の上を、勢いよくほとばしり落ちている。その滝のほとりに、わらびが芽をだす春に、やっとなったんだなあ。

 

垂水(たるみ):滝、急流のことです。

さわらび」:芽を出したばかりのわらびのことです。

 

 

 

⑨『浅緑(あさみどり) 糸よりかけて 白露を 球にも抜ける 春の柳か』

 

作者:僧正遍昭

意味:薄緑色の糸をいくつか合わせて白露の玉のように貫きとめています。そんな春の柳でありますよ。

 

※補足:芽吹いたばかりの柳の枝を「糸」に、枝についた白露を「玉」に喩えて詠んだ歌です。

 

 

 

⑩『東風(こち)吹かば にほひ(い)おこせよ 梅の花 主なしとて 春を忘(わす)るな』

 

作者:菅原道真

意味:春風が吹いたら、香りを送っておくれ。梅の花よ、主の私がいないからといって春を忘れずに咲くんだぞ。

 

※補足:菅原道真が都(京都)から大宰府へ赴任する時の歌で、この歌に感動した梅の木が、道真の後を追って大宰府へ飛んで行ったという伝説が有名です。

 

 

梅の木

 

⑪『世の中に 絶えて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし』

 

作者:在原業平

意味:もしも世の中に全く桜がなかったのなら、春の人の心はどんなにかのどかであろうに。美しい桜があるために人は、いつ咲くか、いつ散るかとハラハラドキドキさせられるのです。

 

 

 

⑫『見渡せば 柳桜をこきまぜて 都ぞ春の 錦なりける』

 

作者:素性法師

意味:見渡すと、柳の緑と桜をまぜ合せて、都は春の錦織のようだ。

 

※錦(にしき):模様の美しい織物のことです。

 

 

 

⑬『春霞 立つを見捨てて 行く雁は 花なき里に 住みやならへる』

 

作者:伊勢

意味:春霞が立ち、せっかく良い季節になったのに、それを見捨てて北へ帰ってゆく雁は、花のない里に住みなれているのでしょうか。

 

 

 

⑭『もののふの 八十娘子(やそおとめ)らが くみまが(ご)ふ(う) 寺井の上の 堅香子(かたかご)の花』

 

作者:大伴家持

意味:大勢の若い娘たちが、入れかわり立ちかわり、お寺の水をくんでいる。その泉のほとりに咲いている、かたくりの花よ。

修辞法:枕詞「もののふ」は「八十(やそ)」にかかる枕詞

 

 

 

⑮『春の夜の 闇はあやなし 梅の花 色こそ見えね 香(か)やは隠るる』

 

作者:凡河内躬恒

意味:春の夜の闇はわけのわからないことをするものだ。梅の花は闇が隠して色は見えないけれど、香りまでは隠れるでしょうか、いや隠れはしません。

修辞法:二句切れ

 

 

 

⑯『大空は 梅のにほひに 霞みつつ くもりもはてぬ 春の夜の月』

 

作者: 藤原定家

意味:大空は梅の香りに霞んでいて、かといってすっかり曇りきってもしまわない、春の夜の月でありますよ。

修辞法:本歌取り「照りもせず曇りもはてぬ春の夜の朧月夜にしくものなきぞ」

 

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⑰『春の夜の 夢の浮橋 とだえして 嶺にわかるる 横雲の空』

 

作者:藤原定家

意味:浮橋のようにはかない春の夜の夢がふと途切れて目覚めると、嶺のあたりから横にたなびく雲が離れてゆく明け方の空でありますよ。

修辞法:体言止め、「橋」と「途絶え」は縁語、本歌取り「風吹けば峰にわかるる白雲の絶えてつれなき君が心か」

 

※浮橋:いかだや舟を並べ、その上に板を渡して作った仮の橋のことで、その頼りない感じから夢のたとえによく使われます。

 

 

 

⑱『花さそふ 比良(ひら)の山風 吹きにけり 漕ぎゆく舟の 跡見ゆるまで』

 

作者:宮内卿

意味:桜の花を誘って散らす風が、比良の山からふきおろしてきた。湖一面に花びらが浮かんで、漕いでいく舟のあとがはっきり見えるほどです。

修辞法:三句切れ、本歌取り「世の中を何にたとへむ朝ぼらけ漕ぎ行く舟の跡の白波

 

※比良(ひら)の山:琵琶湖の西岸にあたりの山。「比良」は、和歌によく詠み込まれる名所歌枕の1つでもあります。

 

 

⑲『またや見む 交野(かたの)のみ野の 桜狩り 花の雪散る 春のあけぼの 』

 

作者:藤原俊成

意味:再び見ることがありましょうか、交野のご料地(皇室の狩場)で桜狩りの時の、雪と見間違うほどに、桜が美しく散る春の明け方の景色を。

修辞法:初句切れ、倒置法、体言止め、見立て(桜を雪に見立てている。)、縁語「狩り」と「雪」(※「狩り」は冬に行うことから)

 

※交野:現在の大阪府枚方市・交野市あたりで、桜の名所として有名で歌枕の1つでもあります。

 

 

 

⑳『見渡せば 山もと霞む みなせ川 夕べは秋と 何思ひけん』

 

作者:後鳥羽院

意味:見渡すと、山のふもとは霞んでいて、そこを流れている水無瀬川。夕べの情趣は秋が良いものだと、どうして今まで思っていたのでしょうか。春の夕べも劣らない趣があるというのに。

 

※水無瀬川:今の大阪府三島郡本町を流れ桂川に注ぐ川であり、和歌によく詠まれる名所歌枕の1つでもあります。

 

山を流れる川

 

㉑『わが園に 梅の花散る ひさかたの 天(あま)より雪の 流れ来るかも』

 

作者:大伴旅人

意味:まだ寒い時期に私の庭の梅の花が散る。天から雪が流れ落ちて来るのかなあと錯覚してしまう程、白く美しい梅の花びらです。

修辞法:「ひさかたの」は「天」を導く枕詞

 

 

 

㉒『春の園 紅(くれない)にほ(お)ふ(う) 桃の花 下照る道に 出て立つを(お)とめ』

 

作者:大伴家持

意味:春の園の、紅に色づいた桃の花の下は照り輝くばかり。その花の下の道に出て立っている乙女よ。

 

※補足:桃の花の美しさと、花の下にたたずむ乙女の美しさを絵のように描写した歌。

 

 

 

㉓『宿りして 春の山辺に ねたる夜は 夢の内にも 花ぞちりける』

 

作者:紀貫之

意味:旅先で一泊して、春の山中に寝た夜は、夢の中でも盛んに花が散ったことだ。

 

※補足:山寺で一泊した時に詠んだ歌で、日中ずっと桜が美しく散る山で過ごしたために、夢の中まで散る桜が出てきたと詠った幻想的な和歌です。

 

 

 

㉔『この里に 手鞠つきつつ 子どもらと 遊ぶ春日は 暮れずともよし』

 

作者:良寛

意味:長い春の日もそろそろ暮れようとしている。でも、この村で子どもたちと手毬をつきながら遊んでいると、春の日が、このまま暮れなくてもいいのにと思ってしまう。

 

 

 

㉕『いつしかに 春の名残と なりにけり 昆布干場の たんぽぽの花』

 

作者:北原白秋

意味:いつの間にか、今年の春も終わりになってしまった。その春を惜しむように、浜辺にある昆布干場にはたんぽぽの花が咲いているよ。

 

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㉖『桜ばな いのち一(いっ)ぱいに 咲くからに 生命(いのち)をかけて わが眺めたり』

 

作者:岡本かの子

意味:桜の花が、命の力いっぱいに咲いているから、私も自分のいのちをかけるようにしっかりと眺めている。

 

 

 

㉗『春がすみ とほくながるる 西空に 入日 おほ(お)きく なりにけるかも』

 

作者:斎藤茂吉

意味:空には春がすみが遠くまでかかっている。そのかすみの流れる西の空に、沈んでいく夕日が、あんなに大きくなっているよ。

 

 

 

㉘『雪とけし 泉の石に 遊びいでて 拝む蟹をも 食は(わ)む(ん)とぞする』

 

作者:土屋文明

意味:蟹が、雪解けした泉の石の上で遊びに出ていて、はさみを合わせて「どうか食べないでください」と拝むようにしている。それなのに私は、そんな蟹さえ食べようとしているのだ。

 

※第二次世界大戦後の食糧不足の頃、疎開先で詠まれた歌です。

 

 

 

㉙『くれなゐの 二尺伸びたる 薔薇の芽の 針やはらかに 春雨のふる』

 

作者:正岡子規

意味:赤いバラの新芽が二尺ほどに伸びている。その柔らかな刺に、こまやかな優しい春の雨が、静かにふりそそいでいる。

 

 

 

㉚『瓶(かめ)にさす 藤の花ぶさ みじかければ たゝみの上に とゞかざりけり』

作者:正岡子規

意味:ふじの花が部屋の花瓶にいけてある。ふじの花のふさが短いので、私が寝ているたたみの上まで届かないのだなあ。

 

※正岡子規が病気で自力で起き上がることもできない状態で詠まれた一首です。

 

ふじの花

 

春の歌には、梅の香りや桜の美しさを詠んだ歌が多くありました。

梅や桜の開花を今か今かと心待ちにし、その花を楽しみ、愛で、そして散っていくことを惜しむ、そんな心の動きは、今の私達にも共感できるものですね。

紹介した①~⑥は有名な百人一首にも選ばれた和歌を取り上げました。

修辞法を用いて作った趣向を凝らした歌が多くあったように感じます。

また、㉕以降は明治時代以降の短歌を紹介しました。

第二次世界大戦後の作品である㉘の歌は、疎開先で詠まれたという背景を知ることで、感じる印象もまた違ってくる一首だったのではないでしょうか。

使用された修辞法の効果を考えてみたり、詠まれた背景や作者の生き方を少しだけ調べてみるということ、それが短歌(和歌)をより深く味わう楽しみに繋がっていくのです。

 

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コメント

コメント一覧 (4件)

  • 修辞法がわからなくて質問したら、こんなに素敵な説明を頂いて
    益々短歌を勉強したくなりました。
    此れからも色々教えて下さいませ。

  • 百人一首は良くやりましたが、意味も解らず覚えました。
    此れからは良く理解して味わいたいと思います。

  • ふる年は 今宵ばかりになりにけり 明けば祝いの言の葉もがな ですが、どなたの句かご存知であれば お教えください。

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