きらきら輝く太陽と、空の青さが到来を教えてくれる夏の季節。
そんな夏は、海や山へ出かけたり、お祭りや花火大会を楽しんだりと、素敵なことがたくさん詰まっている季節です。
夏という季節に人々は何を感じ、どんな歌を詠んできたのでしょうか。
今回は、夏をテーマにした短歌(和歌)30首を取り上げ、意味とその修辞法について紹介いていきたいと思います。
短歌(和歌)とは?
五・七・五・七・七の三十一文字(みそひともじ)で表現する短歌。
そのはじまりは奈良時代に遡り、当時は、
「短歌」
「長歌」
「旋頭歌」
「仏足石歌」
「片歌」
という五七調の歌(五音と七音を基調とした歌)をまとめて「和歌」と呼んでいました。
それが平安時代に入ると「短歌」以外の文化が廃れていき、「和歌」というと「短歌」形式の歌を指すようになっていきました。
「和歌」の特徴は、まず、歌の中に修辞法が多く使われていることが挙げられます。
修辞法は、想いを効果的に伝えたり、趣を添えたりするためのテクニックで、時には言葉遊びのように用いることもあります。
また、「和歌」が収められている歌集は天皇や上皇の「勅命」によって編纂されたものも多く、貴族や文化人などを中心に盛んになった文化ともいえるでしょう。
長い間、多くの人に詠まれ、愛されてきた和歌ですが、明治時代に入ると「和歌」の歌風を批判する動きが起こりはじめました。
それがきっかけとなり、同じ三十一文字(みそひともじ)の文学でありながら、明治時代以降の作品を「短歌」と呼び、それ以前の「和歌」と区別するようになっていったのです。
「短歌」は修辞法などあまり用いず、権力とも切り離された文学であり、近代化・都市化していく社会への不安や、人生の苦悩が多く表現されています。
また、現代になると、口語(話し言葉)で表現された歌や、外来語や記号を用いる歌も誕生するなど「短歌」も時代とともに変化してきました。
では、夏をテーマに詠んだ「短歌(和歌)」をみていきましょう。
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夏の短歌(和歌)30首
①『春すぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ(ちょう) 天の香具山』
作者:持統天皇
意味:春が過ぎていつの間にか夏が来たらしい。昔から夏が来ると真っ白な着物を干すという天の香具山に、ほら、真っ白い夏の着物がほしてあることだよ。
修辞法:「白妙の」は衣を導く枕詞
※天の香具山:奈良県橿原市にあり、古くから神様が住んでいると信じられてきた山で、畝傍山、耳成山とともに大和三山と言われています。
②『夏の夜は まだ宵ながら あけぬるを 雲のいづこに 月やどるらむ』
作者:清原深養父
意味:夏の夜は短く、まだ宵のくちと思っている間に明けてしまった。沈みそびれた月は今ごろ、雲のどのあたりに宿っているのであろうか。
③『ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただ有明の 月ぞ残れる』
作者:後徳大寺左大臣
意味:ほととぎすの鳴いた方向を見渡したところ、ただ明け方の月だけがひっそりと残っているよ。
※ほととぎす:初夏を代表する鳥で、明け方にするどい声で鳴くことが多いと言われています。
※有明の月:夜明けの空に残る月のことです。
④『風そよぐ ならの小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける』
作者:従二位家隆
意味:風がそよそよと楢(なら)の葉に吹きそよぐ、このならの小川の夕暮れは、秋のように感じられますが、六月祓(みなづきばらえ)のみそぎだけが、夏であることを教える証なのですよ。
※補足:この歌は六月の晦日(末日)に行われた「六月祓(みなづきばらえ)」をよんでいます。「みそぎ」とは、川や海の水で身を清め、罪や穢れを払い落とすことです。
※ならの小川:京都府北区にある上賀茂神社の近くを流れる御手洗川のことです。「なら」にはブナ科の「楢」がかけられています。
⑤『五月(さつき)待つ 花橘の香(か)をかげば 昔の人の 袖の香(か)ぞする』
作者:詠み人知らず
意味:五月を待って咲く橘の花の香をかぐと、昔親しんだなつかしい人の袖の香りがするよ。
⑥『蓮葉(はちすは)の にごりに染まぬ 心もて なにかは露を 玉と欺く』
作者:僧正遍照(そうじょうへんじょう)
意味:蓮の葉は、泥水の中に生えながら濁りに染まらない清い心を持っているのに、どうして葉の上に置く露を真珠とみせて人をだますのでしょうか。
修辞法:見立て(露を真珠に見立てている)
⑦『昔おもふ(う) 草の庵の 夜の雨に 涙な添へ(え)そ 山ほととぎす』
作者:藤原俊成
意味:草の粗末な家に、五月雨が降る夜。昔を思い出してしんみりしてしまうのに、その上、ほととぎすよ、そんなに悲しい声で鳴いて涙をこぼさないでおくれ。
修辞法:体言止め、見立て(「雨」を「涙」に)、倒置法
※「草庵(そうあん)」「五月雨」「ほととぎす」は、悲しく昔を思い出す歌によくセットで使われる言葉です。また、「五月雨」は五月の雨ではなく、梅雨のことです。
⑧『道のべに 清水流るる 柳陰(やなぎかげ) しばしとてこそ 立ちどまりつれ』
作者:西行法師
意味:道のそばにきれいな水が流れている柳の木陰があった。ほんの少しの間だけ休もうと思って、立ち止まったのだか・・・(あまりに涼しくて、つい長い時間を過ごしてしまったよ。)
⑨『いそのかみ ふるき都の時鳥(ほととぎす) 声ばかりこそ 昔なりけれ』
作者:紀友則
意味:石上(いそのかみ)の古都で鳴くほととぎすよ。おまえ達の声だけは、昔栄えていたころと少しも変わらないけれど、他のすべては全く変わってしまって、栄えた日のおもかげはないよ。
修辞法:「いそのかみ」が「古き」にかかる枕詞
⑩『夏山に 恋しき人や 入(い)りにけむ 声ふりたてて 鳴く郭公(ほととぎす) 』
作者:紀秋岑(きのあきみね)
意味:夏の山に恋しい人でも入ったのだろうか、ほととぎすは声をふりしぼって鳴いていることだよ。
⑪『五月(さつき)来(こ)ば 鳴きもふりなむ(ん) 郭公(ほととぎす) まだしきほどの 声をきかばや』
作者:伊勢
意味:五月が来れば、鳴いても新鮮味がなくなってしまうほととぎすよ。今こそ、まだ古くなっていない、初々しい声が聞きたいものだよ。
⑫『ちりをだに すゑ(え)じとぞ思ふ(う) 咲きしより 妹(いも)とわが寝(ぬ)る とこ夏の花』
作者:凡河内躬恒
意味:塵も一つ置かないように大切にしようと思います。愛しい妻と共寝する床という名を連想させるこの常夏の花ですから。
※隣の家の人からこの花が欲しいと言われた時に、断るために詠んだ歌と言われています。
⑬『夏と秋と 行きかふ空の かよひ(い)ぢは かたへ(え)すずしき 風や吹くらむ(ん)』
作者:凡河内躬恒
意味:夏と秋がすれ違う空の通路は、片側だけが涼しい秋風が吹いているのだろうか。
※みな月のつごもりの日によめる(六月晦日に詠んだ歌という前書きあり)
和歌を鑑賞する時は、7月から9月を秋の季節として考えます。(太陰暦をもとにしているため。)6月の末日に詠まれたこの歌は、「夏が終わり、秋が来る」という中で詠まれました。
⑭『五月雨の 晴れ間にいでて 眺むれば 青田すずしく 風わたるなり』
作者:良寛
意味:五月雨(梅雨)の止んだ合間に小屋を出て眺めてみた。青々と広がる稲の田に、初夏の風が涼しげにふきわたっているよ。
※五月雨(さみだれ):陰暦の5月(今の6月頃)降る雨で、梅雨のことです。
※青田:稲が青々とよく育っている田のことです。
⑮『夏山の 影をしげみや 玉ほこの 道行き人も 立ちどまるらむ』
作者:紀貫之
意味:夏山の木陰がよく茂っているので、道を行く人も立ち止まるのだろうか。
修辞法:「玉ほこの」は「道」を導く枕詞
⑯『今朝き鳴き 未だ旅なる 郭公(ほととぎす) 花橘に宿は 借らなむ』
作者:読み人しらず
意味:今朝飛んで来て鳴き、まだ旅をしているほととぎすよ。我が家の橘に宿をかりてほしいな。
⑰『葛の花 踏みしだかれて、 色あたらし。 この山道を 行きし人あり』
作者:釈迢空
意味:道の上にくずの花がふみつぶされて、その赤むらさきの色が色鮮やかにはえる。この山道を、私たちより先に通った人がいるのだなあ。
※葛(くず):地面や木につるをのばして茂り、夏に赤むらさき色の花をつけます。
⑱『夏はきぬ 相模の海の 南風に わが瞳燃ゆ わがこころ燃ゆ』
作者:吉井勇
意味:いよいよ夏がやってきた。相模の海の南風に吹かれていると、私の瞳が燃え、私の心も燃えてきました。
⑲『鳴く蝉を 手(た)握りもちて その頭 をりをり見つつ 童(わらべ)走(は)せ来る』
作者:窪田空穂
意味:ジージーと鳴いている蝉を手に握って持ち、その蝉の頭を時々覗き込みながら小さな子どもが嬉しそうに走って来る。
⑳『向日葵は 金の油を 身にあびて ゆらりと高し 日のちひ(い)ささよ』
作者:前田夕暮
意味:ひまわりは、まるで金色の油のような真夏の陽射しをあびながら、ゆらりと高く咲いている。太陽がなんとも小さくみえることだ。
修辞法:四句切れ
㉑『鎌倉や 御仏(みほとけ)なれど 釈迦牟尼(しゃかむに)は 美男おは(わ)す 夏木立かな』
作者:与謝野晶子
意味:鎌倉よ。仏様ではあるけれど釈迦牟尼はとても美男子でいらっしゃる。さわやかな夏木立の中で。
※釈迦牟尼:釈迦の尊称
㉒『夏のかぜ 山よりきたり 三百の 牧のわが馬 耳吹かれけり』
作者:与謝野晶子
意味:さわやかな夏の風が、山からふきおろしてくる。放牧されているたくさんの若い馬たちの耳も、風にふかれてそよいでいるよ。
※「三百の」とは、たくさんのという意味で使われています。
㉓『白雲の うつるところに 小波(さざなみ)の 動き初(そ)めたる 朝のみづうみ』
作者:与謝野晶子
意味:夏空の白い雲が、湖の水面にうつって、ゆっくり動いていく。その水面に風がでて、さざなみのたちはじめた朝の湖よ。
※この歌は作者が富士五湖を旅した時に詠まれたと言われています。
㉔『昼ながら 幽(かす)かに光る 蛍一つ 孟宗(もうそう)の藪を 出でて消えたり』
作者:北原白秋
意味:昼間なのに、かすかな光をともすほたるが一匹、孟宗の竹藪からでてきて、どこかへ飛びさっていった。
※「孟宗(もうそう)」:竹の一種で、孟宗竹のことで、春に食べる多くはこの若芽です。
㉕『石崖に 子ども七人 腰かけて 河豚を釣り居り 夕焼け小焼け』
作者:北原白秋
意味:海岸の堤防の石がきに七人の子どもが座ってふぐを釣っている。夕焼け小焼けが子どもたちの顔を染め、そのむこうに今、真っ赤な夕日がしずんでいくよ。
㉖『鳴きを(お)はると すぐに飛び立ち みんみんは 夕日のたまに ぶつかりにけり』
作者:高村光太郎
意味:鳴き終わるとすぐに飛び立って、みんみん蝉は丸い夕日にぶつかってしまったよ。
㉗『ふるさとの 木に近づけば 蝉だまる そんなに恐く ないさ僕だよ』
作者:高野公彦
意味:ふるさとの木に近づくと、蝉が突然鳴くのをやめました。そんなに怖くないさ、僕だよ。
㉘『みづからの 光のごとき 明るさを ささげて咲けり くれなゐ(い)の薔薇』
作者:佐藤佐太郎
意味:真っ赤なばらの花が咲いている。まるで自分自身が放つ光のような明るさを、くきの上にささげもって。
㉙『彼岸(かのきし)に 何をもとむる よひ(い)闇の 最上川のうへ(え)の ひとつ蛍は 』
作者:齋藤茂吉
意味:夕やみの最上川の流れの上を、一匹の蛍がむこう岸にむかって飛んでいく。あの蛍は、何をもとめて飛んでいくのだろう。
※この歌は、終戦の翌年、疎開先で詠まれたものです。「彼岸」とは川の向こう岸のことですが、仏教では、「あの世」を指す言葉です。作者は「彼岸」に向かっていく蛍に、自分自身の姿を重ねて詠んだのかもしれないと言われています。
㉚『鳳仙花(ほうせんか) ちりておつれば 小さき蟹 鋏(はさみ)ささげて 驚き走る』
作者:窪田空穂
意味:鳳仙花がぽろぽろと花をこぼす。すると、その下にいた小さなカニが驚いて、はさみをあげて走っていくよ。
※鳳仙花(ほうせんか):暑さに強い花で、夏になると葉の陰に赤や白の花を咲かせます。また、実は熟すとはじけて種を飛ばします。
青々と広がる田んぼや、涼しげに流れる川の描写など、読んでいて目の前にその景色が見えてくるような歌も多くあったように思います。
紹介した①から④は、有名な「百人一首」に収められている和歌ですが、「百人一首」に限らず、夏の和歌・短歌は他の季節に比べて数がとても少ないです。
また、⑱以降は明治時代以降に詠まれた短歌を紹介しました。
戦争(第二次世界大戦)を背景に詠まれた㉙の作品は、その背景や状況を知っているかどうかで、感じる印象もまた違ってくる一首だったのではないでしょうか。
そして、表現方法に注目してみると、⑰の作品のように句読点(「、」や「。」)を短歌の中に用いているものもあります。
「短歌(和歌)」が詠まれた背景や作者の生き方を調べてみたり、どうして作者は歌の中に「、」や「。」を使ったのだろうか、この言葉を選んだのだろうか、そんなことを自分なりに考えてみるのも短歌(和歌)の楽しみ方ではないでしょうか。
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