
「ワタシ、中国人アルヨ」
「それは駄目アルヨ!」
のように、漫画やアニメに登場する中国人は、日本語を話すとき、語尾に「アルヨ」を付けますよね。
これはなぜなのでしょうか?
起源や元ネタをご紹介します!
「アルヨ」は役割語
「アルヨ」のほかに「アル」「アルネ」、疑問形は「アルカ」を使います。
- 「そんなこと、知らないアル」
- 「今日は暑いアルネ」
- 「それは本当アルカ?」
のように使い、いずれも、漫画やアニメの中国人キャラクターの特徴的な話し方です。
実際の中国人はこのような話し方はしません。
しかし、語尾に「アルヨ」が付くだけで「このキャラクターは中国人だ」とわかります。
そういった言葉のことを「役割語(やくわりご)」といいます。

役割語とは、性別、年齢、職業、時代など、特定の人物像を連想させる言葉遣いのことで、以下のようなものがあります。
●老人は「そうじゃよ」「~ぞい」
●お嬢様は「~ですわ」「存じておりますわ」
●侍は「拙者」「~でござる」
●軍人は「~であります」
●赤ちゃん・幼児は「~でちゅ」「~でしゅ」
●お金持ちのおばさんは「~ざます」「~だわさ」
では、なぜ「アルヨ」が中国人の役割語になったのでしょうか?
「アルヨ」の起源
その起源は、幕末から明治にかけての日本です。
当時、日本には多くの外国人がやってきました。
1858年(安政5年)の日米修好通商条約によって、日本各地(横浜・長崎・神戸・函館・新潟)に外国人居留地が作られ、中国人や西洋人も多く住んでいました。

外国人居留地(横浜)
そうした状況の中、外国人の間で「ピジン日本語」が自然発生的に誕生しました。
ピジンとは、異なる言語を話す人同士が意思疎通するために、2か国語以上が混じり合って自然に生まれた共通の言葉のことです。
この「ピジン」という言葉は、19世紀に中国の貿易港でイギリス商人と中国人が取引をする際、英語の「business(ビジネス)」が中国語訛りで「pidgin(ピジン)」と発音されたことに由来します。
「アルヨ」の起源は、外国人居留地の中でも特に横浜で生まれた「横浜ピジン日本語」とされています。
外国人居留地では、日本語を話す人と、外国語(中国語や英語など)を話す人がいたため、意思疎通のために「とりあえず通じる日本語を」ということで、日本語を簡略化したピジン日本語が使われました。
大事なのは「通じること」なので、明確なルールは存在せず、さまざまなピジン日本語が生まれたようです。
西洋人が「です」を「デース」、「ます」を「マース」と伸ばして話す表現なども、同時期に生まれています。
「アルヨ」もこの頃は中国人に限らず、外国人全般に使われる表現でした。

「アル」は主に「です・ます」の代わりに使われました。
たとえば
- 「これは美味しいです」・・・「これは美味しいアルヨ」
- 「わかりません」・・・「わからないアルヨ」
語尾の「ヨ」は、日本語の終助詞「よ」がそのまま使われており、「アル」に「ヨ」を加えることで、断言や強調のニュアンスが生まれます。
また、
- 「今日は暑いアルネ」の「ネ」は同意・確認
- 「どこに行くアルカ?」の「カ」は疑問
を表しています。
「アルヨ」の語源
「アルヨ」の「アル」の語源については諸説あります。
説① 日本語の「ある」がそのまま使われた
外国人が「です・ます」の代わりに、より簡単な日本語の「ある」を使ったという説。
説② 中国北部の方言の語尾が影響した
中国北部の方言では語尾に巻き舌の「r」の音が付くことが多く、中国人がピジン日本語を話すときもこの癖が出るため、語尾が「ある」と聞こえ、それが定着したという説。
説③ 中国語の「有(yǒu)」が語源
「有」は「存在する・ある」という意味で、日本語の「ある」と意味が一致することから語源ではないかとされていますが、発音が違うため俗説といわれています。
「アルヨ」が中国人の役割語として定着した理由
その後、大正から昭和初期にかけて日本人が満州に入植し、中国人との接触が増えると、日本語と中国語が混ざった「協和語」が使われるようになりました。
たとえば、「ワタシ中国人アル」「アイヤー!これ高いアル」のような表現です。
もともと外国人全般が使っていた「アル」という語尾は、この頃から中国人特有の表現というイメージに変わっていきました。

宮沢賢治
大正時代には宮沢賢治の「山男の四月」(1921年)に「これながいきの薬ある」という台詞の中国人行商人が登場しました。
昭和初期の漫画「のらくろ」(田川水泡)には中国人キャラクター「豚勝将軍(とんかつしょうぐん)」が語尾に「アル」を付けて話す場面が登場するなど、役割語として定着していきました。
“@gryphonjapan: 【田河水泡・愉快画像集】
「のらくろ」より。
ぶた、かわいくね? このひとが高名な豚勝将軍。 pic.twitter.com/gpY4VjKvQf” 豚勝将軍カヤイイ❤🎵でも殴りたい👊😠🎵— こばひろ天皇陛下様 (@kobahilo1923) May 9, 2015
そして、昭和38年(1963年)には大阪でコミックマジックを披露していた芸人・ゼンジー北京が、隣の中国料理店の店員の話し方を参考に「アルヨ」を使う中国人キャラクターを確立しました。
ほぼ同時期の昭和39年(1964年)には漫画「サイボーグ009」でも中国人キャラクター・張々湖(ちゃんちゃんこ)が「アルヨ」で話す場面が登場し、その後、漫画やアニメで中国人キャラクターの定番の表現となっていったのです。
このように現在「アルヨ」は漫画やアニメでよく見聞きしますが、その元ネタは漫画やアニメではなく、幕末から明治にかけて横浜で生まれたピジン日本語だったのです。

いかがでしたでしょうか?
「アルヨ」は役割語だということがわかりましたね。
「アルヨ」というセリフがあれば、そのキャラクターは中国人だとすぐにイメージできるというのはすごいことだと思います。
しかし、実際の中国人は「アルヨ」と話すわけではありません。
「アルヨ」はフィクションの世界だけのものだと思っておいた方がいいでしょう。
関連:【日本語じゃなかった!?】実は外来語だった意外な言葉一覧
関連:和製英語一覧!通じない和製英語と正しい英語表現をまとめて解説

コメント