「宮中祭祀」
私たちの生活とはほとんど関係がなく、接する機会がないので、言葉さえ知らないという方も多いかもしれません。
では、どなたがどういう目的で宮中祭祀をなさっているのでしょうか?
今回は、宮中祭祀の歴史と意味についてわかりやすく解説し、その内容を一覧にまとめました。
宮中祭祀の読み方と意味、歴史とは?
宮中祭祀の読み方は「きゅうちゅうさいし」です。
宮中祭祀とは、宮中三殿で天皇陛下が、国家と国民の安寧と繁栄を祈ることを目的に行う祭祀(感謝や祈りのために神仏および祖先をまつること)のことです。
宮中三殿とは、皇居内にある神道の神を祀る賢所(かしこどころ)・皇霊殿(こうれいでん)・神殿(しんでん)の総称です。
宮中祭祀には、
「大祭(たいさい)」
「小祭(しょうさい)」
のふたつがあります。
「大祭」は、天皇陛下ご自身により祭典が行われ、御告文(おつげぶみ・ごこうもん 神々への誓いの文章)を奏上されます。
「小祭」は、掌典職(しょうてんしょく・皇室において宮中祭祀を担当する部門)が祭典を行い、天皇陛下が拝礼されます。
宮中祭祀の歴史は古く、日本書紀(720年)には、天照大御神(あまてらすおおみかみ)の孫である瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が、神々の住む国から宮崎県の高千穂峰に降り立った(天孫降臨)の際、天照大御神が「この鏡を私だと思って宮中に祀りなさい」とおっしゃったと記されており、これが、宮中祭祀の起源と考えられています。
宮中祭祀の基本となる心構えは、13世紀前半の「禁秘抄(きんぴしょう・順徳天皇が著された)」の冒頭で「天皇は神事を最優先とし、神を敬い、伊勢神宮また賢所に足を向けて休むようなことがあってはならない」と記されており、歴代天皇に受け継がれています。
時の流れとともに祭祀は変化し、新たに加わったり中断されたりした儀式もありますが、現在行われている祭祀の多くは、明治維新後に再興され、明治41年(1908年)の「皇室祭祀令(こうしつさいしれい)」という皇室の祭祀に関する法律によって法的に整えられ、それぞれの祭祀について国の祝祭日が定められ国民にも広く浸透していました。
第二次世界大戦後、GHQ(連合国軍総司令部)の統治の下、皇室祭祀令は廃止されました。
現在の宮中祭祀は国事行為(天皇が行うものとして日本国憲法に規定された行為)ではなく、皇室の私事として扱われていますが、廃止前の皇室祭祀令の規定に従って行われています。
上皇陛下がご高齢で祭祀をなさっていた際は、お体への配慮や負担軽減のため祭祀の簡略化や所要時間の調整などが行われていました。
宮中祭祀一覧とその内容
宮中祭祀とその内容を一覧にまとめてました。
1月1日 四方拝(しほうはい)
早朝に天皇陛下が神嘉殿南庭で伊勢の神宮、山陵および四方の神々を拝する年中最初の行事。
1月1日 歳旦祭(さいたんさい)
早朝に三殿で行われる年始の祭典。
1月3日 元始祭(げんしさい)
年始に当たって皇位の大本と由来とを祝し、国家国民の繁栄を三殿で祈られる祭典。
1月4日 奏事始(そうじはじめ)
掌典長が年始に当たって、伊勢の神宮および宮中の祭事のことを天皇陛下に申し上げる行事。
1月7日 昭和天皇祭(しょうわてんのうさい)
昭和天皇の崩御相当日(命日のこと)に皇霊殿で行われる祭典で、(陵所においても祭典がある)夜は御神楽(みかぐら・神をまつるための舞や歌)があります。
※陵所とは、天皇、皇后のお墓のことです。
1月30日 孝明天皇例祭(こうめいてんのうれいさい)
孝明天皇の崩御相当日に皇霊殿で行われる祭典。(陵所においても祭典がある)
2月17日 祈年祭(きねんさい)
三殿で行われる年穀豊穣祈願(ねんこくほうじょうきがん・年のはじめに豊作を祈願する)の祭典です。
2月23日 天長祭(てんちょうさい)
天皇陛下のお誕生日を祝して三殿で行われる祭典。
春分の日 春季皇霊祭(しゅんきこうれいさい)
皇霊殿で行われるご先祖祭。
春分の日 春季神殿祭(しゅんきしんでんさい)
神殿で行われる神恩感謝(しんおんかんしゃ・神様に感謝を伝えること)の祭典。
4月3日 神武天皇祭(じんむてんのうさい)
神武天皇の崩御相当日に皇霊殿で行われる祭典。(陵所においても祭典がある)
4月3日 皇霊殿御神楽(こうれいでんみかぐら)
神武天皇祭の夜、特に御神楽を奉奏して神霊をなごめる祭典。
6月16日 香淳皇后例祭(こうじゅんこうごうれいさい)
香淳皇后の崩御相当日に皇霊殿で行われる祭典。(陵所においても祭典がある)
6月30日 節折(よおり)
天皇陛下のために行われるお祓いの行事。
6月30日 大祓(おおはらい)
神嘉殿の前で、皇族をはじめ国民のために行われるお祓いの行事。
7月30日 明治天皇例祭(めいじてんのうれいさい)
明治天皇の崩御相当日に皇霊殿で行われる祭典。(陵所においても祭典がある)
秋分の日 秋季皇霊祭(しゅうきこうれいさい)
皇霊殿で行われるご先祖祭。
秋分の日 秋季神殿祭(しゅうきしんでんさい)
神殿で行われる神恩感謝の祭典。
10月17日 神嘗祭(かんなめさい)
賢所に新穀をお供えになる神恩感謝の祭典で、この朝、天皇陛下は神嘉殿において伊勢の神宮を拝されます。
11月23日 新嘗祭(にいなめさい)
神嘉殿で、天皇陛下が皇祖はじめ神々に新穀をお供えになり、神恩感謝された後、陛下自らも召し上がる祭典で、宮中恒例祭典の中で最も重要なものです。
天皇陛下自ら栽培なさった新穀もお供えされます。
12月中旬 賢所御神楽(かしこどころみかぐら)
夕刻から賢所に御神楽を奉奏して神霊をなごめる祭典。
12月25日 大正天皇例祭(たいしょうてんのうれいさい)
大正天皇の崩御相当日に皇霊殿で行われる祭典。(陵所においても祭典がある。)
12月31日 節折(よおり)
天皇陛下のために行われるお祓いの行事。
12月31日 大祓(おおはらい)
神嘉殿の前で、皇族をはじめ国民のために行われるお祓いの行事。
英語で何て言うの?
宮中祭祀は英語で「Court ritual」です。
Court=宮廷
Ritual=儀式
宮中祭祀がどういうものかわかりましたね。
宮中祭祀一覧を見ると、一年間でこんなに多くの祭祀が行われていることに驚きますね。
現在は、皇室の私事という位置づけではありますが、天皇陛下が国家と国民の安寧と繁栄を祈るという趣旨は昔から変わっていないようです。
私たち一般人が知らないところで、天皇陛下は国民のことを想ってくださっているのですね。
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