四国の八十八箇所のお寺を巡る「お遍路」
お遍路にはどのような意味や目的があり、どのようなご利益があるのでしょうか?
また、お遍路でやってはいけないことがあるそうですが一体どんなことでしょうか?
今回は、お遍路について、わかりやすく解説します。
お遍路の意味とは?
お遍路の読み方は「おへんろ」です。
お遍路とは「四国にある八十八ヶ所の霊場を巡ること」です。
「四国巡礼」「四国遍路」などの呼び方もあり、お遍路している人のことを「お遍路さん」といいます。
四国八十八ヶ所とは、空海(くうかい・774年~835年)に縁(ゆかり)のある、四国の88か所のお寺の総称で、「四国八十八箇所」と表記することもあります。
また、「お四国さん」「八十八ヶ所」などと呼ばれることもあります。
真言宗の開祖であり、後に弘法大師と呼ばれる空海(くうかい・平安時代初期の僧)は、四国で修行しました。
そして、人々の災難を除くために霊場(れいじょう・聖なる場所のこと)を開き、修行僧たちが各地を巡り歩いたのが四国遍路の由来といわれています。
「遍路」という言葉は、「辺地(へんち)」が由来といわれています。
「辺地」は辺鄙(へんぴ)な場所、辺境の地などの意味があります。
現在は交通機関が整い四国へ行くのも便利になりましたが、昔は四国へ行くのはとても大変で、四国は辺地でした。
鎌倉時代(1185年~1333年)ごろに、四国八十八ヶ所を指す場合、「辺路」と呼ばれるようなったと考えられています。
「辺路」は、辺鄙な路(みち)を行くという意味で、四国八十八ヶ所を巡る旅を意味します。
そして、江戸時代(1603年~1868年)になり、「辺路」が「遍路」になったといわれています。
遍路の遍は「遍く(あまねく)」のように用います。
「遍く」とは、「もれなくすべてに及んでいる様子」や「広く」という意味があり、仏教では「すべてのものに平等に」という意味になります。
つまり、「遍路」とは、すべてのものに平等に与えられた道ということになります。
「辺路」は辺鄙な路(みち)を行くという意味ですが、空海に縁のある地を巡って修行をすることから、すべてのものに平等に与えられた道という意味である「遍路」に変化したとものと考えられています。
なぜ四国八十八ヶ所なの?
なぜ四国八十八ヶ所なのかは諸説あります。
●煩悩の数が88だから
●「八」は末広がりで縁起が良いから
●「米」という漢字を分解すると「八十八」になり、五穀豊穣を祈るため
●男42歳、女33歳、子ども13歳の厄年を合計した数が88だから
●選んだお寺の数がたまたま88になったから
など
空海が霊場を開いた当時は、八十八ヶ所は明確に設定されていなかったそうです。
空海に縁のあるお寺も、88だけではなくもっとたくさんあります。
なぜ現在のように八十八カ所が決められたのか、選定基準はなんだったのかなど、詳細は不明です。
お遍路の目的とは?どんなご利益があるの?
お遍路は、もともとは修行のために行われていました。
ご利益としては、四国八十八ヶ所を巡ることによって煩悩が消えるといわれており、また願い事が叶うといわれています。
その後、交通機関が発達すると観光として訪れる人が増え、お遍路の目的も多様化しました。
現在は、
●先祖供養のため
●厄除けのため
●過去の自分を悔いるため
●自分の人生を見つめなおすため
●自分探しのため
●定年後の生きがいのため
●自分の限界に挑戦するため
●健康維持のため
●ストレス解消のため
●現実逃避のため
●観光
など、さまざまな目的や理由があるそうです。
お遍路でやってはいけないこと
お遍路には、いくつか「やってはいけない」といわれているものがあります。
橋の上で金剛杖(こんごうづえ)をついてはいけない
弘法大師が十夜ヶ橋(とよがはし)の下で野宿をしたという言い伝えがあることから、「橋の下で弘法大師がお休みになっている可能性がある」と考え、道中のすべての橋で金剛杖をつかずに渡るようにします。
十夜ヶ橋とは、四国別格二十霊場の第八番札所にある橋で「野宿の聖地」ともいわれています。
四国別格二十霊場とは、空海の足跡が残った番外霊場のうち、20のお寺が集まって形成された霊場のことです。
四国八十八ヶ所と同時に巡礼すると108ヶ所巡ったことになり、人間が持つ108の煩悩が消滅するといわれています。
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金剛杖の上部を握らない、宿に着いたら最初に洗う
金剛杖は弘法大師の分身、弘法大師そのものだといわれています。
そして、金剛杖の上部は卒塔婆(そとば)の形をしており、布で保護されています。
布で保護された部分は握らず、それより下の部分を持つようにしましょう。
宿に着いたら、金剛杖の地面に接する部分を洗って清めます。
トイレに神聖なものは持ち込まない
トイレは不浄な場所といわれています。
そのため、トイレに行くときは金剛杖、菅笠(すげがさ)、輪袈裟(わげさ)、頭陀袋(ずだぶくろ)など神聖なものは持ち込まないようにしましょう。
お遍路で巡るお寺のトイレの前には、神聖なものを置いておく荷物台や棚が設置されています。
また、食事の時には菅笠と輪袈裟を外します。
お接待(おせったい)のお礼の納め札(おさめふだ)に願い事を書かない
お接待とは、通りがかりのお遍路さんに親切にすることです。
地元の人々が見返りを求めず、お遍路さんに飲み物や食べ物を振舞ったり、休憩所や寝床を無料で提供する、四国独特の文化です。
お接待を受けたお遍路さんは、納め札をお礼に渡します。
納め札は参拝の証に納める札ですから、お接待のお礼に渡す場合は願い事を書いてはいけません。
お接待は断らない
お接待は見返りを求めずに行うものですが、お接待をする側が功徳を積むという意味もあります。
そのため、お遍路さんは基本的にお接待を断らないのが礼儀といわれています。
十善戒(じゅぜんかい)を守る
十善戒とは、仏教で日常的に守るべき教えとされており、お遍路でも守る教えです。
十善戒に反することはやってはいけません。
十善戒は以下のとおりです。
不殺生 (ふせっしょう) |
むやみに生き物を殺したり傷つけたりしない |
不偸盗 (ふちゅうとう) |
与えられていないものを盗まない |
不邪淫 (ふじゃいん) |
みだらな男女関係を結ばない |
不妄語 (ふもうご) |
嘘をつかない |
不綺語 (ふきご) |
中身のない話をしない |
不悪口 (ふあっく) |
乱暴な言葉を使わない |
不両舌 (ふりょうぜつ) |
他人を仲違いさせるようなことを言わない |
不慳貪 (ふけんどん) |
欲深い事をしない |
不瞋恚 (ふしんに) |
激しい怒りを抱かない |
不邪見 (ふじゃけん) |
間違った考え方をしない |
お遍路の順番は?
お遍路で巡る八十八ヶ所のお寺のことを「札所(ふだしょ)」といい、それぞれに順番がついています。
巡る順番は特に決まりがありませんが、一番札所から番号順に巡る「順打ち(じゅんうち)」が一般的です。
また、八十八番札所から逆に巡ることを「逆打ち(ぎゃくうち)」といいます。
逆打ちは、伊予の国(いよのくに・現在の愛媛県)の豪商だった衛門三郎(えもんさぶろう)の伝説が由来とされています。
衛門三郎が托鉢(たくはつ)にやってきた僧侶を乱暴に追い返したところ、身の回りで不幸が続きました。
托鉢とは、信者の家々を巡って食べ物などを乞うことです。
後に、追い返した僧侶が弘法大師だったと知り、直接会って許してもらうため四国八十八ヶ所を巡る旅に出ました。
しかし、四国八十八ヶ所を何周しても弘法大師に会うことができなかったため、21周目は逆に巡ることにしました。
そしてようやく弘法大師に会うことができ、泣いて詫び、許されたそうです。
この時の巡礼が閏年だったことから、「閏年(うるうどし)に逆打ちをするとどこかで弘法大師に会える」といわれており、順打ちの3回分のご利益があるといわれています。
閏年以外の逆打ちの場合も順打ちよりも多くのご利益があるといわれていますが、閏年の3回分のご利益ほどではないようです。
ほかに、
八十八箇所を一遍にめぐることを「通し打ち(とうしうち)」
適当に区切って巡ることを「区切り打ち(くぎりうち)」
ひとつの県を国として巡ることを「一国参り(いっこくまいり)」
といいます。
お遍路の巡り方と移動距離は?
お遍路の巡り方は、
徒歩で巡る「歩き遍路」
観光バスで巡る「ツアーバス遍路」
自家用車で巡る「車遍路」
などがあり、バイクや自転車で巡る人もいます。
移動距離は、徒歩で巡った場合と、車やバスで巡った場合で違います。
徒歩で巡る場合は、昔からの巡礼路(遍路道)を通り、距離は1200km前後といわれています。
車やバスの場合は、昔からの巡礼路は通れず、遠回りになるため、約1400㎞といわれています。
移動手段は自分に合ったものを選びましょう。
お遍路の日数は?
個人差があるので一概にはいえませんが、歩き遍路の場合は約50日前後、車の場合は約10日かかるといわれています。
どのような移動手段でも、長距離なので何日もかかります。
自分の体調やペースを考慮して無理のないスケジュールを立てましょう。
一度で八十八ヶ所すべてを巡る通し打ちは難しい場合もあります。
そのような場合は、「今回はここからここまで」とか「今回は三日間で巡れるだけ巡ろう」というふうに数回に分けて区切り打ちや一国参りをするといいでしょう。
また、お遍路では泊まれる場所が限られています。
自分が一日に歩ける距離と泊まれる場所の兼ね合いを考えて行程を決めるといいでしょう。
宿に泊まる場合は前日だと予約で埋まっている可能性が高いため、3日前には予約を入れたいですね。
以下の地図の巻末には、お遍路で利用できる宿の一覧あり、各札所と宿の距離が書かれているので非常に便利です。
お遍路の費用は?
遍路費用の多くは、宿泊費と食費、納経所(のうきょうじょ)に払うお金です。
納経所とは、札所で納経した証として御朱印をもらう場所のことです。
歩き遍路の場合は約50日、車の場合は約10日かかるとするとして、一泊の宿泊費と食費を8,000円とすると、
歩き遍路なら×49泊=392,000円
車遍路なら×9泊=72,000円。
ほかに、車の場合はガソリン代や駐車場代(札所によって異なる。200円~500円。無料の場所もある)がかかります。
また、納経所では、納経帳に御朱印をいただきますが、一カ所で500円です。
八十八ヶ所すべて巡ると、44,000円かかります。
納経所の受付時間は7時から17時までです。
また、八十八ヶ所のうち三カ所はロープウェイやケーブルカーがあります。
利用しなくてもいいですが、利用する場合は、
●二十一番札所「太龍寺」=ロープウェイ・往復2,600円
●六十六番札所「雲辺寺」=ロープウェイ・往復2,200円
●八十五番札所「八栗寺」=ケーブルカー・往復1,000円
おおまかに以上のような費用がかかると考えていいでしょう。
また、四国八十八ヶ所の道中には、お遍路さんが無料で利用できる宿泊施設が点在しています。
これらの施設を利用すれば、宿泊費を抑えることができます。
以下のようにいろいろな施設がありますが、いずれもお遍路さんは無料で利用することができます。
通夜堂(つやどう)
お寺の境内に設置されたお堂を利用できる場合があります。
本来は夜通し仏事を行う場所です。
大師堂(だいしどう)
お寺にある大師堂とは別で、四国八十八ヶ所の道中に点在している大師堂です。
善根宿(ぜんこんやど)
本来は、修行僧や遍路、貧しい旅人などを無料で宿泊させる宿です。
遍路小屋(へんろごや)
「ヘンロ小屋」とも書きます。
お遍路さんがトイレを利用したり一休みできる休憩場所です。
宿泊できるところもあります。
ほかに、バス停や公園、道の駅なども野宿ができる場所があります。
これらの施設はお寺や地域住民などの善意によって営まれており、お接待の一種です。
寝具の有無、シャワーの有無、キッチンの有無、洗濯機の有無など、施設によって設備が異なります。
利用する際には近くの商店や住民に声をかけるようになっている場所もありますので、事前に貼り紙の案内などを確認しましょう。
また、お遍路さんのマナーが悪くて「野宿禁止」になってしまった場所もあります。
無料で利用できるのは、お寺や近隣住民などの善意です。
感謝の気持ちを忘れずに、
●ゴミを放置しない
●汚さない
●大声で話さない
●飲酒して騒がない
●ほかのお遍路さんとトラブルを起こさない
●トイレがないからとそこらへんで用を足さない
●野宿禁止の場所で野宿をしない
などのマナーを守って迷惑をかけないように利用しましょう。
お遍路さんに適している時期は、春と秋といわれています。
その時期は特に混雑するので余裕を持ってスケジュールを立てましょう。
もともとは修行を目的として始まったお遍路ですが、現在は人それぞれに目的があり、最近は海外からの巡礼者も多く訪れています。
どのような目的だったとしても、お遍路というすばらしい日本文化をこれからも後世に残していきたいものですね。
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