鼻が高くて、顔が赤くて、体が大きくて・・・その姿から、なんとなく「天狗」は怖いというイメージがあります。
現在でも、天狗の伝説が残っている地域は日本各地にありますが、そもそも天狗って何なのでしょうか?
今回は、天狗の意味や由来、天狗の種類について解説します。
天狗って何?の意味や由来とは?
天狗の読み方は「てんぐ」です。
天狗(は、「天の狗(てんのいぬ)」という意味があり、「狗」は「犬」のことです。
天狗の起源は中国だといわれています。
古代中国での天狗は、凶事(不吉なこと・良くないこと)を知らせる「流れ星」を意味するものだったそうです。
流れ星は隕石が大気圏に突入するときに観測できますが、地表近くまで落下すると空中で爆発して大きな音が響きます。
その時の音が犬の咆哮(ほうこう・たけりほえること)に聞こえ、隕石が輝きながら落ちていく様子が、犬が天を駆け降りるように見えたことから「天の狗」つまり「天狗」の語源となったのだそうです。
また、月食も天狗の仕業だと考えられていました。
当時はなぜ月食が起こるのかがわかっておらず、説明がつかない現象だったため「天の狗が月を食べている」と考え、不吉なものとされていました。
流れ星や月食のように不吉と考えられていたことと天狗が結びつき、天狗に悪いイメージが定着したようです。
日本では日本書紀(720年に天武天皇の命によって舎人親王が中心となって作られた、朝廷の公式歴史書)に初めて天狗が登場します。
雷のような轟音とともに現れた流れ星を見て人々が「流れ星だ!」と騒いでいるとき、中国(当時は唐)から帰国した僧が、「流れ星ではない。これは天狗だ。」と言ったことが書かれています。
しかし、その後、平安時代(794年~1185年)中期の970年代頃に成立した「うつほ物語(宇津保物語)」という長編物語に記されるまでの間、天狗のことを書いた書物はなく、日本書紀の「天狗=流れ星」という中国の考え方は定着しなかったようです。
「うつほ物語」では、天狗は山に棲む妖怪や物の怪(もののけ)の一種として登場します。
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その後、天狗は、日本各地で独自の進化をし、神格化されて祀られたり、妖怪として恐れられたり、さまざまな伝説とともに語り継がれるようになりました。
天狗のイメージの由来
天狗は一般的に、山奥深くに住んでおり、顔が赤い、一本歯の高下駄を履いている、頭襟(ときん・山伏がかぶる帽子)をかぶっているおり、天気を操る力を持っていたり、空を飛ぶなど神通力を持っているといわれています。
これは、山で修行をする「山伏(やまぶし)」を天狗を同一視したためだといわれています。
山伏とは、奈良時代に役小角(えんのおづぬ)によって創始されたといわれる「修験道(しゅげんどう)」において、山に籠って修行を行う人のことであり、「修験者(しゅげんじゃ)」ともいいます。
修験道は森羅万象に神が宿るとされる民族宗教の神道に山岳信仰と仏教が合わさったできた日本独特の宗教です。
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山伏は修行をすることで、険しい山を軽々と飛ぶように歩くことができ、不思議な力を使えるようになるといわれていることから、山伏の姿を見た人々が、神通力を持つ天狗と山伏を同一視したのですね。
顔が赤いのは、山伏が山で修行しているときに、一般の人々が山に入ってくるのを嫌い、魔除けの色とされる赤いお面をつけて怖がらせたからといわれています。
他にも鼻が高い、顔が赤い、体が大きいイメージがあるのは、天狗は外国人をモデルとしたからという説があります。
外国との交流がなかった時代、船が難破して日本に漂着した外国人が山奥に住み着いたとか、初めて外国人を見た日本人が自分たちとあまりにも異なる姿から恐れを抱いて妖怪扱いしたといわれています。
日本人に比べると外国人は鼻が高くて体が大きく、顔が赤く見えたようです。
どんな種類の天狗がいるの?
以下のような種類の天狗がいます。
大天狗
天狗の中で最も強い神通力を持っており、神様に近い存在または神様そのものと考えられています。
人間に近い顔形をしていますが、鼻が高く、体は大きく、赤ら顔です。
背中には翼を持つものが多いですが、鬼や人間の姿で描かれることもあります。
厳しい修行により、優れた力を持った山伏は死後に大天狗になるといわれています。
大天狗は、大きな葉っぱのうちわを持っていますよね。
このうちわのことを「天狗の羽団扇(てんぐのはうちわ)」といい、持つだけで魔物を追い払う力があると考えられており、その他、天候や火を操る、空を飛ぶ、変身するなど、いろいろな神通力を持っているといわれています。
小天狗
大天狗よりも位が低く、小柄です。
「烏天狗」や「木の葉天狗」も小天狗といわれています。
烏天狗(からすてんぐ)
大天狗より小柄で、嘴(くちばし)があり、空を飛ぶ翼をもっています。
僧が身を護る錫杖(しゃくじょう)を持っており、武器として使っています。
木の葉天狗
江戸時代(1603年~1868年)の文献に登場する天狗で、烏天狗と同じような姿かたちのほかに、オオカミの姿をしていたり、人の姿をしていたりと、さまざまな説があります。
女天狗(めてんぐ)
女性の天狗で、美しい女性の姿をしており、背中の翼がなければ天狗とはわからないほどだといわれています。
また、人を見下したりおごりたかぶったりした尼(女性の僧)は「尼天狗」になるそうです。
神様としての天狗
日本各地で神様として祀られている天狗には、それぞれ名前があります。
滋賀県の比叡山では「法性坊(ほうせいぼう)」、福岡県の英彦山では「豊前坊(ぶぜんぼう)」、京都府の鞍馬山では「僧正坊(そうじょうぼう・別名、鞍馬天狗)」、静岡県の秋葉山では「三尺坊(さんじゃくぼう)」など、古くから信仰されています。
また、古事記や日本書紀に登場する猿田彦命(さるたひこのみこと)は背が高く長い鼻をもつという描写があり、天狗のイメージと混同されたり同一視されたりすることもあります。
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英語でなんていうの?
英語圏には天狗の伝説はありませんので、日本語の天狗をそのまま英語で表現することは難しいですが以下のように表現されるようです。
● a long-nosed goblin (鼻が長い小鬼・生き物)
また、
「with a fun of leaves in his hand(葉っぱのうちわを持っている)」
「with wings on his back(背中に翼を持つ)」
などを付加するとわかりやすくなるかもしれませんね。
天狗はなぜ山伏の姿をしているのかな?と思っていましたが、山伏と天狗を同一視したり、山伏が死後に天狗になるといわれていることから来ているんですね。
また、性別も男性だけではなく、女性の天狗もいて、多くの種類があることがわかりました。
天狗は、妖怪として恐れられたり、神様として祀られたり、とても不思議な存在だと思いませんか?
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