日本の伝統食材の「梅干し」は、保存食として古くから日本人に親しまれてきました。
では、梅干しはいつから食べられているのでしょう?
また、梅干しを食べるのは日本だけなのでしょうか?
今回は、梅干しの起源と歴史をご紹介します。
梅干しとは?
読み方は「うめぼし」です。
梅干しとは、梅の実を塩漬けしたあとに天日干しして乾燥させたもので、日本の伝統的な保存食です。
梅干しの種類
梅干しの種類は、
「梅干し」のほか
「調味梅干し(ちょうみうめぼし)」
「梅漬け」
があり、まとめて「梅干し」と呼ぶことが一般的です。
それぞれの違いは以下の通りです。
梅干し
梅の実を塩漬けしたあとに天日干しして乾燥させたもので、「白干し梅(しらぼしうめ)」ともいいます。
調味梅干し
調味梅干しとは、梅干しを調味料に漬けたもので以下のものがあります。
●しそ梅 赤シソの葉と一緒に漬けた梅干し
●鰹梅 鰹節をまぶした梅干し
●はちみつ梅 はちみつを加えた梅干し
●昆布梅 昆布と一緒に漬けた梅干し
●黒糖黒酢梅 黒糖と黒酢に漬けた梅干し
など
梅漬け
梅の実を塩漬けしたあとに天日干しをしていないもので、梅の実が硬さを保っており、カリカリとした食感に仕上がります。
梅の起源とは?
まず、梅の起源についてご紹介します。
梅がいつごろ日本に伝わったのかはっきりわかってはいませんが、遣唐使(けんとうし)が伝えたという説が有力のようです。
奈良時代(710年~794年)に遣唐使が「烏梅(うばい)」を持ち帰りました。
「烏梅」とは、未熟な梅の実を加工して薬用にしたもので、現在も漢方薬として用いられています。
「烏梅」は「うめ」の語源ともいわれています。
中国語では烏梅を「むえい」や「めい」と発音していたものが、日本人には「うめ」と聞こえ、「梅」のことも「うめ」と呼ぶようになったそうです。
その後、梅の木が日本でも植えられるようになったといわれています。
「梅」が文献に初めて登場するのは、日本最初の漢詩集である「懐風藻(かいふうそう・751年)」におさめられている葛野王(かどのおう)の「春日翫鶯梅(かすがおうばいをはやす)」と題する漢詩です。
また、「万葉集」には梅を題材とした和歌が数多く収められています。
このことから、奈良時代(710年~794年)ごろには梅の実が食べられていたのではないかと考えられています。
元号の「令和」は万葉集の歌が由来ですが、その歌にも梅が出てきます。
「初春の令月にして 気淑く風和ぎ 梅は鏡前の粉を披き 蘭は珮後の香を薫らす」
(しょしゅんのれいげつにして きよくかぜやわらぎ うめはきょうぜんのこをひらき らんははいごのこうをかおらす)
歌の意味は「初春の良き月、空気は麗(うら)らかにして爽やかで、梅は鏡の前の白粉(おしろい)のように咲き、蘭は匂い袋のように香っている」です。
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梅干しはいつから食べられている?起源と歴史とは?
日本で梅干がいつから食べられているのか、定かではありません。
平安時代(794年~1185年)の948年に村上天皇(むらかみてんのう・第62代天皇、在位946年~967年)が疫病にかかった際、梅干しと昆布を入れたお茶を飲んで回復し、疫病にかかっていた人々のことを救ったという言い伝えがあります。
「梅干し」が文献に初めて登場したのも平安時代(794年~1185年)です。
医師の丹羽康頼(たんばのやすのり)が記した日本最初の医学書「医心方(いしんぽう・984年)」に「梅は三毒を断つ」という記述があります。
「医心方」に記載されている「梅」は、梅を塩漬けにしただけの「梅干し」のことだといわれています。
三毒とは、
水毒(すいどく)
食毒(しょくどく)
血毒(けつどく)
のことです。
水毒とは、体の中の水分の汚れのことです。
梅を食べることで汚れが体外に排出されます。
食毒とは、食生活による体内の乱れのことです。
梅を食べることで体内の栄養バランスを取ってくれます。
血毒とは、血液の汚れのことです。
梅を食べることで血液がさらさらになります。
また「医心方」には他にも、
「味は酸、平、無毒。気を下し、熱と煩懣を除き、心臓を鎮め、四肢身体の痛みや手足の麻痺なども治し、皮膚のあれ、萎縮を治すのに用いられる。下痢を止め、口の渇きを止める」
という記載もあり、梅は万能薬のように使われていたと考えられています。
鎌倉時代(1185年~1333年)末期の日本最古の料理書「世俗立要集(せぞくりつようしゅう)には「梅干ハ僧家ノ肴也」という記述があります。
これは「梅干しは、お坊さんの酒のさかなである」という意味です。
このことから、鎌倉時代にはお坊さんたちが梅干しを食べていたと考えられており、次第に武家の間にも梅干しが広まりました。
武家では「垸飯(おうはん)」というもてなしがありました。
垸飯は出陣や凱旋の際に縁起物として用いられており、アワビやクラゲ、塩、酢などが梅干しと共に提供されるご馳走でした。
戦国時代(1467年~1590年)になると、梅干しは食中毒や伝染病の予防、傷の消毒、落ち着きを取り戻し、精神を安定させる薬として重宝されるようになります。
梅干しは作りやすくて保存性が高いうえ持ち運びもしやすかったので、武士が戦に携帯するようになり、梅の木が日本各地に広がったきっかけになったといわれています。
これまで、貴族や武士など一部の人しか食べることができなかった梅干しですが、江戸時代(1603年~1868年)になると庶民の間でも食べられるようになります。
江戸中期には赤シソで漬ける「しそ梅」や砂糖漬けにした「甘露梅」などいろいろな漬け方が登場しました。
江戸時代末から明治時代(1868年~1912年)には、感染症の「コレラ」が数年おきに流行を繰り返し、大勢の人が命を落としました。
この時、梅干しに含まれる有機酸には抗菌作用があり、コレラ菌をやっつける効果があることがわかり、コレラの予防や治療に役立ったそうです。
明治から大正(1912年~1926年)にかけて、日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦などが起こり、梅干しは軍用食として需要が増加し、全国各地で梅の栽培が盛んになりました。
その後昭和、平成、令和と時代は移り変わりましたが、いつの時代も梅干しは日本人にとって身近な食べ物として親しまれてきました。
現在は塩分控えめの梅干しや、すっぱさが苦手という人向けにはちみつを使った甘い梅干しなど、いろいろな梅干しが販売されています。
梅干しを食べるのは日本だけ?
梅干しを食べるのは日本だけなのか調べたところ、梅干しに似たような食べ物はあるようです。
中国では「ワームイ」という干し梅があります。
「ワームイ」は、塩水につけた後干した梅をシロップなどに漬けこんだ甘酸っぱい干し梅で、中国では伝統的な子どものおやつです。
また、インドでは「アムチュール」という「インドの梅干し」と呼ばれる食べ物もあります。
「アムチュール」は梅の実ではなくマンゴーをスライスして天日干ししたあとパウダー状にしたものです。
料理の風味付けに使われるアムチュールは梅干しに似た酸味があります。
日本の梅干しは「梅の実を塩漬けしたあとに天日干しして乾燥させたもの」なので、「ワームイ」と「アムチュール」は、日本人が食べている梅干しとは違います。
最近は、梅干しには健康に良い効果や効能があるので、日本の梅干しが海外からも注目されています。
そのため、梅干しを食べる外国人が増えてきているといわれており、外国の日本食スーパーでも梅干しを取り扱うお店が増えているようです。
日本の伝統的な梅干しはすっぱくて食べづらかったり、苦手という外国人も多いのですが、料理のソースに使ったり、はちみつ梅のような甘く加工されたものを食べたりするようです。
梅干しの効果や効能
梅干しを食べるといろいろな効果や効能があるといわれています。
疲労回復効果が期待できる
梅に含まれるクエン酸は、疲労を蓄積させにくくし、疲労を回復させる働きがあります。
血液サラサラが期待できる
梅に含まれるクエン酸がドロドロ血液の原因である酸性を中和させ、血液をサラサラにします。
また、梅干しを加熱することで生じる「ムメフラール」は血液がサラサラに流れるようにして、動脈硬化の予防や、血圧上昇を抑える働きがあります。
梅干しを加熱調理することで、より効果的に血液をサラサラにすることができます。
カルシウムの吸収率を高める効果が期待できる
梅干しに含まれるクエン酸は、カルシウムの吸収を助ける働きがあり、子どもの骨の成長を助けたり、骨粗しょう症の予防が期待できます。
胃腸に良い効果が期待できる
梅干しに含まれる植物性乳酸菌は、腸内環境を整えてくれます。
また、腸の働きを整えるので、下痢や腹痛、便秘予防の効果が期待できます。
食欲増進効果が期待できる
梅干しの酸味成分には、唾液の分泌を促して食欲を増進させる効果があります。
病気や夏バテで食欲が落ちたときに梅干しや、梅干しを使った料理が効果的です。
食中毒予防効果が期待できる
梅干しに含まれるクエン酸などの有機酸は、食中毒を起こす菌を抑制する効果があります。
梅干しの殺菌力により、食材が腐るのを防止する効果も期待できます。
梅干しに賞味期限はない?
「梅干しに賞味期限はない」といわれていますが、本当です。
梅の実を塩漬けしたあとに天日干しして乾燥させるという、昔ながらの方法で作られた梅干しは、塩分が20~30%なので賞味期限ないといわれています。
常温で保存しても腐ることはなく、100年以上保存されている梅干しが全国各地にあるそうです。
しかし、塩以外のものも使う作り方の梅干しは賞味期限があります。
塩分控えめの梅干し
塩分控えめ(10%以下)として販売されている梅干しの賞味期限は、未開封で3か月~6か月程度です。
開封後は、賞味期限に関わらずなるべく早く食べるよう推奨されています。
調味梅干し
調味梅干しも塩分が控えめに作られているので、長期間保存には向きません。
賞味期限は未開封で2週間~6か月程度です。
開封後は、賞味期限に関わらずなるべく早く食べるよう推奨されています。
商品によっては賞味期限が大きく異なりますので、購入時にきちんと確認しておきましょう。
また、「塩分控えめの梅干し」と「調味梅干し」は、どちらも6か月を超えると未開封でもカビが生えたり腐ったりします。
梅干しの保存方法
昔ながらの塩分濃度の手作りの梅干しは常温保存できるので、直射日光を避け、湿度の低い冷暗所で保存しましょう。
塩分控えめの手作り梅干しや市販の梅干しは、未開封・開封後問わず、冷蔵庫で保存し、開封後は早めに食べましょう。
7月30日は梅干しの日
7月30日は梅干しの日です。
2025年は7月30日(水)です。
和歌山県日高郡みなべ町の株式会社東農園が平成16年(2004年)に制定しました。
制定目的は不明です。
この時期になると、この年に作った梅干しを食べることができるようになるということや、昔から「梅干しを食べると難が去る」と言われていたことから、「7(なん) 30(さる)」という語呂合わせで7月30日になったそうです。
また、7月30日の卯の刻(午前6時~8時)にその年の恵方(えほう)に向かって梅干しを食べると、気が高まって精気がみなぎるといわれています。
2025年の恵方は西南西です。
恵方とは、その年の一番良いとされる方角のことです。
その方角には、金運や幸せをつかさどる「歳徳神(としとくじん)」と呼ばれる神様がいるといわれています。
梅干しがいつから食べられているのか起源や歴史がわかりましたね。
梅干しは、遠いご先祖様たちからずっと受け継がれてきた日本の伝統的な食べ物です。
昔ながらの製法で作られた酸っぱい梅干しだけでなく、酸っぱさが苦手な人、塩分を控えたい人向けに、いろいろな製法の梅干しが販売されていますよね。
普段の食事に上手に取り入れて、毎日を健康に過ごせると良いですね!
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