はじめて四国八十八ヶ所を巡る時、何をしたら良いのかわかりませんよね。
今回は、一番札所の霊山寺でやることを順番にわかりやすく解説いたします。
四国八十八ヶ所とは?
読み方は「しこくはちじゅうはっかしょ」です。
「四国八十八箇所」と表記することもあります。
「お四国さん」「八十八ヶ所」などの呼び方もあります。
四国八十八ヶ所とは、平安時代の僧侶である空海(774年~835年・弘法大師)に縁(ゆかり)のある、四国の88か所のお寺の総称です。
この88か所のお寺を巡礼(じゅんれい)することを
「四国八十八ヶ所巡礼」
「お遍路(おへんろ)」
「四国遍路」
「四国巡礼」
などといいます。
また、遍路している人のことを「お遍路さん」といいます。
四国八十八ヶ所は、
徳島県に23ヶ所
高知県に16ヶ所
愛媛県に26ヶ所
香川県に23ヶ所
あります。
真言宗の開祖である空海は、人々を災いから救うために四国に霊場を開きましたが、空海の入定後(にゅうじょうご)に修行僧たちが霊場を巡り歩いたのが四国八十八ヶ所のはじまりといわれています。
入定とは修行のひとつで、精神統一をし、無我の境地に至るために瞑想することです。
空海は死んだわけではなく、生きとし生けるものを救済するために高野山の奥の院で永遠の瞑想をしていると信じられているのです。
入定後に醍醐天皇(だいごてんのう・885年~930年、第60代天皇)から「弘法大師(こうぼうだいし)」という諡号(しごう・功績を称えるために贈られる尊号)が贈られました。
そのため「弘法大師」「お大師さま」「お大師さん」などと呼ばれています。
一番札所とは?
四国八十八ヶ所のお寺は、1番から88番まであり、それぞれのお寺のことを「札所(ふだしょ)」といいます。
お参りをした際に、自分の住所、年齢、氏名などを記したお札を納めてお参りの証にすることから「札所」と呼ばれています。
1番目は「一番札所」
2番目は「二番札所」
3番目は「三番札所」
・
・
・
88番目は「八十八番札所」
という風に呼びます。
一番札所は「霊山寺(りょうぜんじ)」です。
また、親しみを込めて「一番さん」とも呼ぶこともあります。
徳島県鳴門市にある霊山寺は、奈良時代(710年~794年)に聖武天皇(しょうむてんのう・701年~756年、第45代天皇)の勅願(ちょくがん・天皇の願い)によって僧侶の行基(ぎょうき・668年~749年)が開いたお寺です。
その後、815年に弘法大師が霊山寺で修行をし、霊場開設の成就を祈願したといわれています。
霊山寺が一番札所になった理由は以下のように諸説あります。
弘法大師が霊山寺を出発地点と決めたから
弘法大師が四国の東北角に位置する霊山寺を出発地点とし、そこから右回りに八十八カ所の霊場を開いたから一番札所になったという説があります。
鳴門市の港に一番近かったから
本州から四国へ渡るために船しか交通手段がなかったころ、大阪から四国へ渡るには淡路島を経由して現在の鳴門市に入るルートが一般的でした。
その時の港に一番近かったのが霊山寺だったので一番札所になったという説があります。
四国八十八ヶ所の巡り方は「順打ち(じゅんうち)」が一般的です。
順打ちとは、一番札所から順番に八十八番所まで巡ることです。
そのため、一番札所である霊山寺が多くのお遍路さんの出発点となるのです。
また、八十八番札所から逆の順番で一番札所まで巡ることを「逆打ち(ぎゃくうち)」といいます。
詳細につきましては以下の記事をご覧ください。
関連:お遍路の意味と目的とは?どんなご利益があるの?やってはいけないこと
一番札所(霊山寺)で何をする?
はじめてのお遍路では何をしたらいいのかわからないと思いますので、一番札所の霊山寺で何をするのかわかりやすく説明いたします。
お遍路に必要なアイテムを揃える
霊山寺に着いたらまずお遍路さんにとって必要なアイテムを揃えましょう。
霊山寺の納経所(のうきょうしょ)には、お遍路用のアイテムを取り扱う売店が併設されています。
納経所とは、参拝の証に御朱印などを授けてくださる場所です。
また、霊仙寺門前には、門前一番街があり、こちらにもお遍路アイテムを扱うお店があります。
お遍路さんに必要なものを販売しているお寺は他にもありますが、必要なものが一通り揃うお寺は少ないです。
そのため、後で買おうと思わず霊山寺で買ったほうが良いでしょう。
※ろうそくや線香など消耗品については多くのお寺で取り扱っています。
他に、ネット通販で購入する方法もあります。
また、ある程度揃えておいて、菅笠や金剛杖などのかさばるものだけ納経所で買ってもいいでしょう。
お遍路さんにとって必要なアイテムは以下のとおりです。
必ず揃えなければならないわけではありませんので、自分にとって必要と思うものを購入してください。
納経帳(のうきょうちょう)
四国八十八ヶ所のお寺ごとにページが決まっています。
お参りをして納経した証として御朱印(ごしゅいん)をいただきます。
関連:御朱印の意味と御朱印帳の記入の順番とは?裏はどちらから?
菅笠(すげがさ)
日除けや雨除けのために頭にかぶります。
菅笠には次の文字が書かれています。
●梵字
菅笠をかぶるときは梵字(ぼんじ)が正面にくるようにします。
梵字はサンスクリット語を表記するための文字で、菅笠の梵字は「ゆ」と発音します。
弥勒菩薩(みろくぼさつ)を表す梵字で、お大師様(おだいしさま・弘法大師のこと)を表しているといわれています。
●同行二人(どうぎょうににん)
お大師様がずっと同行してくださるという意味です。
たとえ一人でお遍路をしていても、常にお大師様が一緒ということです。
●迷故三界城(めいこさんがいじょう)
「人間が悩んだり苦しんだりするのは、煩悩や欲望、常識やこだわりなどに縛られて、三界を脱することができないからです。」という意味です。
三界とは、欲界、色界、無色界のことです。
●悟故十方空(ごこじっぽうくう)
「しかし仏心を持ち、悟りを開こうとするならば、何にも捕らわれることない自由な世界が見えてきます。」という意味です。
●本来東西無(ほんらいむとうざい)
「そもそもこの世界には自分自身を縛る常識や概念はなど何もないのです。太陽が東から登り、西に沈むといっても、その東や西というのは人間が決めた言葉であって、本来名前などないのです。」という意味です。
●何処南北有(かしょうなんぼく)
「南北という言葉も人間が決めた便宜上の言葉です。この世の常識というものは、何事も人間が作り出したものであり、それに縛られているのは人間だけです。」という意味です。
この「迷故三界城 悟故十方空 本来東西無 何処南北有」は、
「迷うが故に三界域なり 悟るが故に十方は空なり 本来東西は無く いずくんぞ南北有らん」
と読みます。
「迷いがあるから煩悩や欲望、常識などに縛られてしまう。悟りを開けば、世界は広々として何のさまたげもないと気づく。もともと世界には東も西もない。南や北もない。本当の世界は遮るものなどなく自由自在だ」
という意味です。
昔は真言宗や禅宗では葬式の際に棺桶の上に書かれていたそうです。
そして、お遍路の道の途中で命を落とした場合は、死者を菅笠で覆い棺桶の代わりにしたそうです。
白衣(びゃくえ・はくえ)
お遍路さんの正装といわれています。
昔は、険しいお遍路の途中でいつ亡くなっても良いように死装束(しにしょうぞく)の意味があったそうです。
本格的なお遍路さんは白衣の中も白装束を着ますが、現在は洋服の上から白衣を着ることが多いです。
金剛杖(こんごうづえ)
金剛杖は弘法大師そのものともいわれています。
そのため、一番大事な物とされており、お遍路さんはお大師様の分身として大切に扱います。
昔は、お遍路の途中で亡くなったときに供養のための卒塔婆(そとば)の代わりにしていたそうです。
現在も、金剛杖の上の方は卒塔婆の形をしており、その部分は布で保護されています。
卒塔婆についての詳細はこちらをご覧ください。
関連:【卒塔婆】読み方と意味とは?卒塔婆の書き方と値段、処分の仕方
輪袈裟(わげさ)
袈裟(けさ)は仏教徒の証であり、僧侶が身につける衣装です。
首からかける輪袈裟は袈裟を簡略化したもので、一般の人がお寺を参拝するときの正装といわれています。
食事やトイレの際は外すようにします。
数珠(じゅず)
数珠には本式数珠と略式数珠があります。
本式数珠は108個の玉が連なっています。
四国八十八ヶ所では真言宗用の本式数珠を使うのが一般的です。
自分の宗派の本式数珠を使っても問題ありません。
また、略式数珠は本式数珠よりも玉の数が少なく、どの宗派でも使えるのが一般的です。
四国八十八ヶ所では、略式数珠を使ってもなんの問題もありません。
経本(きょうほん)
各お寺のご本尊(ごほんぞん)の真言(しんごん)や般若心経(はんにゃしんぎょう)などが書かれています。
ご本尊とは、そのお寺で最も大切な信仰の対象になるもの、仏様のことです。
真言とは、真理を表す秘密の言葉です。
般若心経の詳細はこちらをご覧ください。
関連;般若心経の意味とは?全文とわかりやすい現代語訳。唱えるとどのような効果があるの?
納め札(おさめふだ)
参拝の証に納める札です。
四国八十八ヶ所では、本堂と大師堂にそれぞれ1枚ずつ奉納します。
一か所のお寺で2枚必要ということになりまね
納め札の表には参拝年月日、住所、願意(願い事)、氏名、年齢を書きます。
例:
●参拝年月日:
令和◯年◯月◯日
●住所:
東京都渋谷区〇〇
※すべて書かなくてもいいです。
●願意(願い事):
・家内安全
・無病息災
・開運招福
・心願成就 など
長い場合は、裏面に書きましょう。
お願いごとの四字熟語については以下の記事を参考にしてください。
関連:【お願い事の四字熟語】神社やお寺でのお願い事で使える四字熟語一覧
●氏名・年齢:
氏名年齢を書きましょう。
年齢は満年齢で大丈夫です。
納め札は参拝の時にその場で書くのではなく、事前に書いておくと良いでしょう。
また、納め札は四国八十八ヶ所を何周巡ったかで色が変わります。
1~4周は白
5~6周は緑
7~24周は赤
25~49周は銀
50~99周は金
となっています。
100周以上は「錦の納札(にしきのおさめふだ)」になりますが市販されておらず、受注生産になります。
また、納め札はお遍路さん同士の挨拶で名刺代わりに交換したり、お接待(おせったい)を受けたときのお礼に渡すことがありますので、事前に準備しておいたほうがいいでしょう。
お接待とは、通りがかりのお遍路さんに親切にすることです。
地元の人々が見返りを求めず、お遍路さんに飲み物や食べ物を振舞ったり、休憩所や寝床を無料で提供する四国独特の文化です。
線香、ろうそく、着火具
各お寺でお参りをする際にお供えするのは線香とろうそくです。
線香とろうそくに火をつける着火具(マッチやライター等)も忘れずに準備しておきましょう。
着火具は風防付きのライターがおすすめです。
100均でライター用の風防カバーだけ手に入れることもできます。
頭陀袋(ずだぶくろ)
納経帳や納め札、数珠、経本、線香、ろうそく、着火具などお参りに必要な物を入れて肩から斜めにかけて持ち歩くための袋です。
山谷袋(さんやぶくろ)ともいいます。
参拝
必要なものを準備したら、四国八十八ヶ所巡りの始まりです。
一番札所の霊山寺の参拝手順は以下の通りになります。
※各札所での参拝も共通です。
1. 山門で合掌、一礼する
お寺の入り口にある山門(仁王門)で合掌をして一礼をします。
山門の中央を通るのは避け、左側を通りましょう。
2. 手と口を清める
手水舎(てみずしゃ・ちょうずや)で手を清めて口をすすぎます。
手水舎の使い方の詳細はこちらをご覧ください。
関連:神社やお寺の手水舎の使い方と手の洗い方とは?柄杓が無い場合・汚い場合は?
3. 鐘を撞(つ)く
お寺によって鐘を撞けるところと撞けないところがあるので、その都度確認しましょう。
鐘を自由に撞けるお寺の場合は、参拝の前に一度撞きます。
霊山寺では鐘楼で鐘を撞くことができますので、一度撞きます。
※こちらについては撞かなくても特に問題ありません。
4. 本堂へお参り
ご本尊がまつられる本堂へお参りをします。
以下本堂でのお参りの仕方を順番に解説します。
①灯明(火を灯したろうそく)をろうそく立てに1本立てます。
この時、持参した着火具で火をつけましょう。
他の人のろうそくや着火具から火をもらうことは「もらい火」といって、災いや悪縁をもらうことになるので避けるべきこととされています。
また、あとの人がやけどをしないようにろうそくはろうそく立ての奥から立てるようにしましょう。
②線香3本に火をつけ、香炉に立てます。
ろうそく立てに立てたろくそくまたは、持参したライターやマッチでつけます。
あとの人がやけどしないように香炉の中央から立てるのがマナーです。
③納め札を納札箱、写経を奉納する人は写経箱、お賽銭をお賽銭箱にお供えします。
④鰐口(わにぐち)を鳴らします。
⑤合掌、一礼します。
⑥経本を見ながら読経をします。
はじめての時は、声を出して読経するのはとても恥ずかしいと思います。
その場合、周りに聞こえないぐらいの小さな声や、心の中で唱えてもいいのです。
何度も読むうちに次第に大きな声で読めるようになっていきます。
また、読経のとき数珠を左手に持ちます。
本式数珠は二重に巻き、略式数珠はそのままで、左手の親指と人差し指の間に通すように持ちます。
読経の順番は以下の通りです。
(1)開経偈(かいきょうげ)を1回
無上甚深微妙法 百千万劫難遭遇 我今見聞得受持 願解如来真実義
(むじょうじんじんみみょうほう ひゃくせんまんごうなんそうぐう がこんけんもんとくじゅじ がんげにょらいしんじつぎ)
(2)懺悔文(さんげもん)を1回
我昔所造諸悪業 皆由無始貪瞋癡 従身語意之所生 一切我今皆懺悔
(がしゃくしょぞうしょあくごう かいゆうむしとんじんち じゅうしんごいししょしょう いっさいがこんかいさんげ)
(3)三帰(さんき)を3回
弟子某甲 盡未来際 帰依仏 帰依法 帰依僧
(でしむこう じんみらいさい きえぶつ きえほう きえそう)
(4)三竟(さんきょう)を3回
弟子某甲 盡未来際 帰依仏竟 帰依法竟 帰依僧竟
(でしむこう じんみらいさい きえぶっきょう きえほうきょう きえそうきょう)
(5)十善戒(じゅうぜんかい)を3回
弟子某甲 盡未来際 不殺生 不偸盗 不邪淫 不妄語 不綺語 不悪口 不両舌 不慳貪 不瞋恚 不邪見
(でしむこう じんみらいさい ふせっしょう ふちゅうとう ふじゃいん ふもうご ふきご ふあっく ふりょうぜつ ふけんどん ふしんに ふじゃけん)
(6)発菩提心真言(はつぼだいしんしんごん)を3回
おんぼうじ しった ぼだはだやみ
(7)三摩耶戒真言(さんまやかいしんごん)を3回
おん さんまや さとばん
(8)般若心経(はんにゃしんきょう)を1回
関連:般若心経の意味とは?全文とわかりやすい現代語訳。唱えるとどのような効果があるの?
(9)ご本尊の真言を3回
ご本尊の真言はお寺によって異なりますので注意しましょう。
経本や本堂の前に掲示されていますので確認して読みましょう。
霊山寺のご本尊は釈迦如来で、真言は、「のうまく さんまんだ ぼだなん ばく」です。
※大師堂では真言は唱えないので注意しましょう。
(10)光明真言(こうみょうしんごん)を3回
おん あぼきゃ べいろしゃのう まかぼだらまに はんどま じんばら はらばりたや うん
(11)ご宝号(ごほうごう)を3回
南無大師遍照金剛
(なむだいしへんじょうこんごう)
(12)回向文(かいこうもん)を1回
願くは この功徳をもってあまねく一切に 及ぼし われらと衆生と みなともに仏道を成ぜん
(ねがわくは このくどくをもってあまねくいっさいに およぼし われらしゅじょうと みなともにぶつどうをじょうぜん)
※お願い事がある場合はこのタイミングで、合掌して願います。
⑦合掌、一礼します。
5. 大師堂へお参り
弘法大師をまつる大師堂へお参りをします。
本堂のお参りと同じことをしますが、読経のときにご本尊の真言は唱えないので注意しましょう。
6. 納経所へ行く
納経所で御朱印をいただきます。
7. 山門で合掌、一礼する
お寺の入り口にある山門(仁王門)で合掌をしたまま一礼をします。
山門の中央を通るのは避け、左側を通りましょう。
これで参拝は終了です。
いかがでしたでしょうか?
一番札所である霊山寺で何をしたらいいかわかりましたね。
わからないことがあれば、お寺の方やほかのお遍路さんに聞いてみるといいですよ。
また、一番札所である霊山寺は多くの人にとってスタート地点なるため、お遍路さんに必要なものは一通り取り扱っています。
しかし、霊山寺以外から始める場合、必ずしもそのお寺で一通り揃うとは限りません。
事前にネット通販で購入しておくか、道中の売店などで購入しておくと良いですね。
関連:お遍路の意味と目的とは?どんなご利益があるの?やってはいけないこと
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