「藪入り」という言葉をご存じの方はどれくらいいるでしょう?
聞いたことも見たこともないという人も多いかもしれませんが、「藪入り」は現在は別の形となってその伝統が引き継がれているようなんです。
藪入りの意味や由来、語源、日にちなど、今回は「藪入り」についてわかりやすく解説します。
「藪入り」の意味や由来とは?
「藪入り」の読み方は「やぶいり」です。
「藪入り」とは旧暦1月16日と7月16日に商家などで住み込みで働いている奉公人(丁稚(でっち))や、嫁いだ女性が子どもと一緒に実家に帰省することをいいます。
江戸時代(1603年~1868年)に都市部の商家に広まった習慣で、もともとは奉公人だけの習慣でしたが、いつしか嫁いだ女性にも広まったそうです。
藪入りの前日である旧暦の1月15日は「小正月(こしょうがつ・昔のお正月のこと)」、7月15日は「お盆」で重要な祭日です。
そのため、奉公人や嫁いだ女性たちに実家の行事に参加できるよう休みが与えられたそうです。
昔は奉公人に定休日などはなく、嫁いだ女性は実家の門をくぐることを許されませんでしたが、藪入りだけは実家に帰ることができました。
奉公先の主人は、奉公人に着物や履物、小遣いや手土産を与えて実家に送り出し、実家では両親が子どものためにご馳走を作って楽しみに待っていたそうです。
実家が遠く帰れない人は、買い物やお芝居を見るなど遊びに出かけたそうです。
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また、藪入りで年2回帰省できることは徹底されたルールではなく、奉公先によっては何年も帰省できないこともありました。
それぞれの期間がどれくらいなのかは奉公先や嫁ぎ先によって異なっていましたが、一般的に奉公人は年に2回、それぞれ1日。
結婚した女性は年に2回、小正月とお盆に藪入りを含め数日間の期間があったようです。
3年ぶりに息子が帰ってくる様子を落語で演じている「藪入り」は古典落語のひとつとして広く演じられています。
「藪入り」の語源とは?
藪入りの語源は諸説ありますが、はっきりしません。
●実家へ帰るという意味の「宿入り(やどいり)」という言葉が訛った(なまった)という説
●藪の深い田舎に帰るからという説
などがあります。
関西では1月16日、7月16日は「6」がつくので「六入り」、
九州では「親見参(オヤゲンゾ)」
と呼ぶところもあるようです。
また、
1月を「藪入り」
7月を「後の藪入り(のちのやぶいり)」
ともいい、
「藪入り」は新年の季語
「後の藪入り」は初秋の季語
となっています。
「藪入り」を用いた有名な俳句
●正岡子規
『藪入りの 二人落ちあう 渡しかな』
●与謝蕪村
『やぶ入りや 浪花を出て 長柄川』
「後の藪入り」を用いた有名な俳句
初秋の季語として俳句に用いる場合「後の」は省略して「藪入り」だけで良いようです。
●松瀬青々
『藪入して 秋の夕を 眺めけり』
●正岡子規
『藪入や 皆見覚えの 木槿垣(むくげがき)』
2025年の藪入りの日にちはいつ?
藪入りの日にちは旧暦1月16日と7月16日の年2回です。
旧暦と新暦には1ヶ月ほどのズレがありますが、旧暦から新暦になったときに日にちがそのまま引き継がれています。
ということで、2025年の藪入りは
2025年1月16日(木)
2025年7月16日(水)
になります。
労働スタイルの変化や、日曜日などの定休日ができたことで藪入りは廃れていきましたが、現在のお正月やお盆の帰省としてその伝統は引き継がれているのです。
もうひとつの「藪入り」
奉公人たちの休日である「藪入り」とは別の意味の「藪入り」があります。
それは「道に迷う」という意味の「藪入り」です。
江戸時代、人が自由に移動できないように各地に関所が設けられていました。
関所では「通行手形」というものを確認し、それを持っていない場合は関所を通ることができません。
通行手形ない人は、関所近くの抜け道を使いますが、そのような行為は「関所破り」といわれていました。
関所破りをするつもりはなく、道に迷って知らないうちに関所破りをしてしまった・・・というケースもあったようです。
神奈川県にある箱根の関所では、関所破りの記録がほかの関所に比べてとても少なかったそうです。
関所破りは大変な罪で磔(はりつけ)の刑になりますが、箱根の関所では関所破りが未遂だったり、怪しいと疑われた人を「藪入り」として注意だけの軽い処分で済ませて釈放していたそうなのです。
この場合の「藪入り」は「道に迷う」という意味なので、「関所破りをするつもりはなくて、ただ道に迷っただけ」ということで釈放したのです。
なぜ箱根の関所では「藪入り」として済まされていたのか明確な理由は定かではありませんが、当時の人たちが温情で行ったのではないかと考えられています。
また、関所破りは、関所を管理している藩の落ち度ということになるため、箱根の関所を管理していた小田原藩が「藪入り」ということにして、関所破りの人数を減らしていたのではないかともいわれています。
藪入りが、現在のお正月・お盆帰省に当たることがわかりましたね。
週休二日制が当たり前になっている現在、年に2日しか休めないなんてとても想像できませんが、奉公先に住み込みで毎日働いていた人たちにとって、藪入りは待ち遠しい日だったことでしょう。
また、親元を離れて頑張っている我が子が帰ってくるということで、親の喜びも大変なものだったことが想像できますね。
とてもうれしいことがあったときに「盆と正月が一緒に来たよう」と表現しますが、藪入りのうれしさが由来になっているそうですよ。
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